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百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 2幕』 [百合小説:ブログ小説]


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白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 2幕

 

 そろそろ仕掛ける頃合いかもしれない。そういったのは、『オルクス』自身であった。しかし、懸念材料もある。
「あまり、考察材料を与えるべきではないだろう。『イマジネイター』において、スターゲイザーの異名をいただくものが、どれほど知能と解析能力に優れた存在かは、説明する必要性を感じないのが正直なところだ。とくに解析能力においては私を軽く凌ぐ。おおよそ、あれほど観察と研究に特化した『イマジネイター』は、他には存在しない」
「それは、自分とともに長い時間を過ごしてきた、パートナーだったから言えることなのか?」
 比較的若い女性の声だ。いや、『イマジネイター』として数多の星々を巡ってきた『オルクス』にとっては、全ての人間は若い存在でしかないのだが。しかし、それにしても若い。自分を御しきれていない気配を、隠せていない。
 その女性は、金髪の長い髪を束ねることもなく、そのまま流している。髪が傷んでいる様子が傍からみても分かるが、それを隠そうともしていない。そして、何よりその目だ。
 緑色のエメラルドのように美しいその目には、しかしなによりも憎悪が渦巻いている。怒りの炎が垣間見えるのだ。自制心はあるのだが、やはり若いということなのだろう。自身が最も抱えている感情が、見た目では分からないように出来ないということは。
「もちろんそうだ。今はお前がパートナーだが。そうか……私がパートナーに遠慮しているかを懸念しているのか?」
 怒りの感情に、わずかに動揺の色が混じった。やはり若い。この程度で感情の揺れを悟られるようでは。それでも、ワタシはこの女をパートナーに選んだのだが。
「今はお前が私のパートナーだ。遠慮しているわけではない。だが、危惧はしている。うかつな行動をすれば、それだけ敵に情報を与えることになる。準備が万全でないことを悟られるのは、得策とはいえまい? それに、そういった懸念は無用だ」
 無論、『オルクス』とて郷愁を感じないわけではない。最も共感し、最も長い時を過ごした同胞の『イマジネイター』は、もちろん今は『ジャッジメント』と呼ばれることが多い、あのカタシロだからだ。
 だが、それ以上に滾っている感情がある。だから、この女をパートナーとした。『ジャッジメント』はむやみに『イマジネイター』を断罪することも消去することもない。だが、『オルクス』は常に同胞である『イマジネイター』を根底から消去する形で抹殺してきたのだ。ゆえに、死の魔神の2つ名を持っている。
 あのカタシロとは根本的に違う。だからこそ、尊重し合えていたのだろうが。自分は生粋の戦闘狂なのだ。戦闘に生きがいを感じ、そのために行動してきた。無論、それを自制するだけの強靭な精神があったから、『スターゲイザー』とも呼ばれる『イマジネイター』とも一緒に行動することが出来たのだが。
 ただ、前から思っていたことはある。自分とあの『イマジネイター』が戦ったら、どちらが勝つのか。試してみたいのだ。自分の限界というものを。それを越えた先にあるものを。ゆえに。
「心配はいらない。私はカタシロとは違う。戦い以外には興味がない」
 しかし、むしろ『オルクス』はこの女にこそ懸念を感じている。この女は戦いに興味があるわけではない。全ての人間に憎悪を抱き、世界を壊したいという衝動に駆られている。それに対する自制心が足りていない。
 それを補うのは、パートナーである自分なのだろう。自分は戦闘狂ではあるが、いらない破壊行動を自制することぐらいは容易に出来る。その程度には、長い年月を宇宙を旅することに費やしてきた、ETであるのだ。
「次の布石は打った。あとは、その結果次第だ。向こうの出方もこれで伺うことは出来るだろう。しかし、これ以上は準備が整ってからだ」
 その言葉に、一応はパートナーが納得したことを確認して、『オルクス』は決戦への準備を開始することにした。全てはそのための行動に過ぎない。



 私たちの報告を聞いた高天賀原は、しばらく考えるようなそぶりを見せていたが、そのうち重い口を開いてこう述べるに留まった。
「たしかに、考察材料が少なすぎるな。今は様子を見る以外になさそうだ」
 ただし、これからの『イマジネイター』に関する観測を更に密にすることと、緊急事態に備えて私たちの『ロンギフローラム』使用に関する制限を、出来うる限り緩くすることを上層部に提示することは、約束してくれた。
「私に出来ることは、これぐらいだからな」
 諦めに似た表情で、彼はそう述べるに留まった。結局、戦いが始まれば私と唯に頼らざるを得ないということに、彼は自責の念を感じているらしい。ただ、それにふけって自分に出来ることを疎かにするような人間でもない。出来うることは全て講じてくれた。
「ありがとうございます」
 結局の所、唯とは違って私がこうして比較的穏便に生活することが出来ているのは、高天賀原をはじめとする良識あるスタッフの尽力であるというとこは、唯の話などを聞いて理解していた。
 唯はそういう暗部はあまり私には見せないようにしていたが、私たちを脅迫などして強制的に人類に従わせようとするものたちがいるということは、唯の方から聞かされている。つまりは、私たちに単純に味方してくれるものは、それほど多いわけではないということだ。
 そのために行われたいくつかの駆け引きの結果の、今がある。それはきっと、忘れてはいけないことなのだろう。
 高天賀原との話し合いは、結局はアマネリスの時と同じような展開で幕を閉じることになり、私たちは家に戻ることになった。
「ようやく一息つけるかな」
「そうだね。アメリカからこっちまで、ほとんど休みなしだったから、ソラは疲れているよね」
 それは唯の方もそうだったのだが、さすがに本体が『イマジネイター』である唯は私とは違って、肉体的な消耗はヒト型でいる間は、大してしないものらしい。
「うん、休憩はとってたんだけど、なかなか強行軍だったからね」
「しばらくは、ゆっくりと休めると思うから、ソラは今のうちに英気を養っておいた方がいいね」
「なにか根拠があるの、唯?」
「あれは試験運用だよ、多分ね。おそらく次はもう少しまともな奴がくる。ただ……」
「ただ?」
「連中がそこそこ頭が切れる連中なら、次くらいで試験は終わりにするだろうね。何度も繰り返せば、情報が漏れる危険が高くなる。私としては、そうでないことを祈りたいけど……」
 また唯が言葉を切った。ただ、今度はなんとなく言いたいことが分からないでもない。人工知能などを解析した唯の感想からして、おそらくはそういったことに何の警戒も抱かないような、そんな程度の低い相手とは到底思えないということなのだろう。
「頑張ろうね、唯」
 それは、唯を安心させるためというよりは、自分に言い聞かせるような言葉だった。その言葉とともに、そばにいる唯と、軽く口づけを交わす。こうして唇を通して、互いのぬくもりを感じられれば、私たちはきっと諦めずに戦っていけるのだと。私はそう信じているのだ。


 それは、その口づけから約1週間経ってからのことだった。事件は、太平洋の海上で起こった。『HF』のヒト型が多数目撃されたのだ。最初にそれを目撃したのは、おそらくは漁船であった。
 おそらくというのは、その船がおそらくは密漁のためか隠密行動をとっていたからで、更にいうなれば『HF』たちの群れから攻撃を受けて、一瞬で原型を留めない形状にまで破壊されてしまったからである。
 ゆえに、詳細な目撃情報が集まったのは、その破壊行動によって諜報機関に流れた観測を経由してからのものとなった。というのが、高天賀原からの情報である。
「今回、有事ということで権限が強まってな。君たちからすればようやくといったところだろうが……これが組織の愚鈍さというものでね。これでも急いだ方かもしれん。とにかく、これからはある程度自分たちで脅威と判断した場合には、自由に融合形態への移行が許可されるようになった。その権利の解除に関しては、本部のアマネリス殿と私に権利が譲渡されている。つまりは、私たちが制止しない限りは、君たちは好きに動いてくれて構わない。というわけだ、火急の用事になってしまったが、頼めるか?」
 高天賀原はこういう言い方をする男である。『対イマジネイター戦略研究開発部門』は本来、両親を『イマジネイター』による事件で失った天田空を、社会的文化的および金銭的に支援する見返りに、『対イマジネイター』には天田空と形代唯は事件を解決するという契約があるのだ。
 だから、当然ながら高天賀原は命令を下すような立場ではないが、だからといって特にお願いをする必要もないわけである。だが、彼はあくまで私たちの自由意思を尊重するという立場を崩すことがない。少なくとも、命令あるいは強制するつもりがない。これが、唯からも警戒されていない理由だろう。
「もちろんです!」
「ソラのためでもあるからな。同胞の不始末はワタシタチがつける」
 そして私たちは、融合のための口づけを交し合う。いつも帰ってこれる保証はなかったが、今回はかなり危険な任務になるだろう。生き残れる根拠はなにもない。だから、今日はいつもと違って、不思議と恥ずかしくなかった。むしろ、唯と最後になるかもしれない口づけだからだろう。
 いつもよりも長く、私たちは互いのぬくもりを確かめあうことにしたのだ……


 その場所は、日本からは南に位置する海上ではあるが、場所としてはインドシナ諸島などの北側に近い場所である。とはいえ、周辺には陸地と呼べるようなものはなにもない。
「前と同じく、海の中に潜ることで、ある程度監視の目を逃れたのかな? まあ、単純に人間を強制的に『コア・モジュール』にしたのとはわけが違う連中だから。ソラ、油断はしないで」
「分かってるよ、唯」
 正直、油断など到底出来るような心境ではなかった。唯はこの1週間で『ロンギフローラム』について改修を進めてきており、現在は素体部分の改修が完了したところである。違和感は少ないとは聞いていたが、想像以上に色々弄られているようで、装甲などの重量バランスが少し違う。
 現在は慣らしも兼ねて色々試しながら飛行しているが、高速戦闘になると違和感は大きなものになるかもしれない。全体としては、装甲の比重が代わっているのが大きいようだ。部分的に重要な場所への装甲を増やして、代わりに重要でない箇所の装甲は薄くしてある。そして、余った重量分に高エネルギー集積体を集めて、総合的なバランスを保つようにしてあるのだ。
 他にも、これからに備えて装甲の可動部分なども若干弄られているため、総合的な違和感は少なく仕上げてあるとはいえ、やはり動かすだけで不安が付きまとう。だが、慣れるしかない
「数は何騎くらいだったっけ?」
「10騎くらいとは聞いたけれど……前回の件もある。伏兵がいるのは間違いないと思う」
「10騎か……」
 戦法そのものについては、唯との話し合いで接近戦を主体にすることで同意した。
 相手が人工知能なら、選択肢が極端に多い接近戦の方が、対応方法には制限がでるはずで、逆に遠距離戦は最適な戦闘方法をいくつか入力していればそれでフォーメーションを組んで対応可能な分、明らかにこちら側が不利だと言われた。
 無論、相手のコンビネーションを加味もしている。自分から切り込むことは本来自殺行為なのだろうが、数で圧倒的に勝る相手に好き勝手に遠距離攻撃出来る状態を維持されれば、先にこちらの方が消耗する。
 単体戦闘力と防御力、運動性と接近戦での対応能力ではこちらが勝っているのだから、ある程度無理してでも接近して、遠距離からの援護方法自体も制限させなければ、ジリ貧なのは明らかにこちらだ。
「虎穴に入らずんば……か」
 私に出来るのは、最適な接近戦の戦闘方法をイメージすること。人間同士の接近戦ではないから、当然人間での戦闘方法に固執してはいけない。『LHF』にのみできる戦闘方法をイメージし、それに最適な接近戦の方法を選ぶ。
 それが私に課せられたことなのだ。唯のやることには、機体を形成するとともに、私の思考を高速戦闘可能なように高速化するという処理も含まれている。当然、情報のサポートも入っているから、メインで戦闘機動を制御するのは私の仕事になっている。
「ソラ、そろそろだよ」
 まだ、相手が見える距離ではない。普通の人間ではだが。だが、距離は大分縮まっている。しかも、こちらの速度は尋常ではない。そろそろ、戦いが始める頃合いと見ていい。
「イメージして……やるべきことを!」
 見えた。そう思った瞬間に、いままでセーブしていた力場による機動力を、限界まで高める。ナンバリングは、今回は数字になっている。そのナンバーは、距離の近いものが中心になっているが、なぜか番号が2つに分かれている。その理由はすぐに分かったが。
 相手は武装しているのだ。近距離武装は全てナイフで、ナンバリングは前にSがついている。遠距離戦型は主にライフルを装備しており、前にGがついている。ショートとガンナーの略だろうか?
 唯からは、前に『イマジネイター』の力場形成能力を高める手段として、武装を形成するという手段について検討したことがあると唯に聞いたことがある。ただし、それをしてしまうと武装の特性によって、力場の形成に関して応用力が下がるとも聞いていた。だから、自分たちのように単体戦闘力で勝る個体は、あまり武装を形成するメリットがないといっていた。
 逆にいうと、戦闘力で劣ると判断した個体は、力場の形成能力に劣るという点を、力場の形成方法を特化させるということで、ある程度はカバーできるということかもしれない。
 更にいうと、近距離型と遠距離型は、それぞれが基本的に形が似通っていた。普通の『イマジネイター』は個体の個性によって形状が異なることの方が多いのだが、このヒト型の形状についてはむしろ酷似しているといっていいかもしれない。近距離型は少し小さ目で、遠距離方は逆に少し大きい他は、2対の形状も似ている。
 近距離型は運動性重視で、遠距離方はおそらく力場の形成能力と形成エネルギー量を重視して大きくなっているのだろう。というのは、唯がサポートのために私の脳内に直接入力してきた情報だった。
 両者はともに『LHF』と極端に大きさが変わるものではない。こちらを真似しているのだろうか? ある程度のアレンジはしてあるようだが。形状などについてもある程度統一されており、部隊として運用するなら、さらに洗練されているといえるだろう。
「いっけぇ!」
 そういった知識は頭の隅にいれつつ、狙う相手を定める。最初は近距離型の3ナンバーを狙うように見せかけて、遠距離型を潰すことを考えていた。
 しかし、近距離型はどうやら遠距離攻撃をある程度捨て去ることで、近距離戦での適応力を高めているのだろう。前に比べて近距離でのさばき方が洗練されているのが、素人目でも判断がついた。
 その上、ナイフの力場が予想よりも強力になっている。完全に役割を分担したがゆえの、メリットということだろう。
 だが、そうなることもある程度は想定してはいた。そのために、腕部に稼働装甲が追加されているのだ。その腕部が可動することにより、力場形成能力の応用に関して調整することが出来るようになっている。
 基本的には、腕部を展開した状態は力場を腕部に集中させた状態になっている。防御や近距離での接近戦に向けて調整されたもので、ナイフのような攻撃部位が小さいかわりに貫通力がある武装についても、腕部に集中した力場でなら、防御が可能になっている。
 とはいえ、その力場は通常のものより小さいために、広域防御などには向いていない。しかも、防御の際にはある程度綺麗に腕部で防ぐ必要が出てくる。ただ、ナイフよりは応用が効く上に、一応はナイフでの力場集中にも耐え抜くだけの強度が確保できているようである。
 近距離型の予想以上の動きに、本来なら接近されるまえに引き離すつもりだったのだが、結果的にはその機能を使ってはじく羽目にはなった。
 が、その反動で近距離型を引き離し、遠距離方のナンバー2に向かって接近する隙が出来た。その隙に『ロンギフローラム』を直進させる。G2はその動きに対してライフルを放ってくる。
 だが、そのライフルは腕部装甲の展開を抑えて、腕部への力場を絞ることにより、防御面を大きくして強引に防御する。ライフルタイプの力場形成装置から打ち出された射撃は、しかし、ナイフほどの力場強度はやはり確保できなかったようだ(仮に出来るように出力設定すれば、ナイフと違って損失が大きいため射撃頻度が極端に長くなってしまうだろう)。
 強引に防御しつつの接近戦でそのまま相手を破壊しようと……
「ソラ、これには人間が乗ってる!」
 胸部装甲を抜き手で貫こうとしていたのを、そらして腕部を破壊するのに留めた。
「分かった! 出来るだけ戦闘力を奪うように……!」
 その瞬間だった。私の意識が一瞬戦闘からそれた時である。その瞬間までがわかっていたとは到底思えないが……
「ソラ、相手は自爆する気だよ!」
 相手が組み付いてこようとしていたのに気づくのが遅れた。攻撃のために使った力場は、ナイフと同じく腕部から発生させているもので、放出はさせていないために損失がほとんどない。その力場をとっさに広域防御に振り分けることで、組み付かれるのは阻止できたが。
「くぅぅ!」
「ソラ!」
 近くまで接近されていたのに、とっさで広域防御することを選択してしまったために、防御力が不足してしまった。機動に関する制御を乱されて、一時的に高度が落ちる。海面すれすれになったところでなんとか高度を維持することが出来たが……
「あっ!」
 G2以外の遠距離型から狙われている。それも自爆の最中に散開したようで、方向が一定ではない。全部を見て躱すことも防御することも難しい。それだけではない。近距離型も接近してきている。

「ソラッ!」
 どうする! どうすればいい? 死の予感が背筋を駆け抜けていく。


白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 3幕 へと続く
 


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