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百合ブログ小説:アカキキズナとムスビメと 第一章・三節 [百合小説:ブログ小説]


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第一章 三節 それは事件の始まりか?



 ワタシとエスペランサは、基本的にセットの用に扱われる。というより、エスペランサを差し置いてワタシだけを動かそうとすると、エスペランサが大層不快に思うらしい。というより、実際にその不快ぶりを見た人間が、もう二度とエスペランサとワタシを引き離すな、と進言したらしい。
 その顛末に至るまでの経緯がいかなるものかは、実はワタシは詳しくは知らないのだが。百選練磨のイレイザーたちでさえ、震え上がって(流石に表情では分かりにくいが)その忠告を頑なに守ろうとする辺り、想像しない方が身のためかもしれない。少なくとも、当事者であるワタシ自身もことの真相を確かめようとは、つゆほども思いもしない程度には。
 つまるところ、エスペランサは徹底的にワタシを自分の所有物のように独占したいらしい。ワタシの世話を焼く気は皆無な癖に、おそろしいまでに嫉妬深く、そして身勝手な話ではある。
 そもそも、それほど執着されているなどと感じるような出来事が、普段の生活ではない。ただまあ、多少の思い当たる節はあるというか、『可愛いお人形』のように扱われているという風に感じることはある。
 替えがきくと感じるくらいにはぞんざいで、それでいてワタシが無関心では居られないと感じるくらいには、おざなりで気まぐれでときおり優しい。
 ワタシがエスペランサに関することを端的に書けば、つまりはそういうことになる。向こうがどう感じているかなどは全く分からないのだが……



「で、ワタシのみならずアヤメさんが呼ばれている理由は、一体なんなのでしょうか? 真田さん」
「ユウキくんとアヤメくんを同時に必要とするケースは、護衛か奇襲かのどちらかしかないけれど、この場合は端的にいって奇襲だね」
 アヤメと呼ばれた少女、もうすぐ少女ではなく女性と言われる年代であるところの彼女は、茶髪のショートボブに黒のタンクトップ、唯一金をつぎ込んでいるらしいスポーツシューズを身にまとった、実に活動的な見た目をしている。そしてもちろん、活動的な見た目に見合う活動的な任務を任されることが常だ。
 殺める女、ゆえにアヤメ。本人がイレイザーに任命されていこう、自分の活動指針を表すために自らそう名乗っているコードネームであるが、イレイザーという組織では他に比類するものはほとんどいないほどの戦力であり、名前負けしている印象は全くない。
 とはいえ、基本的に妖魔に対して攻勢を仕掛けることを全て奇襲と言い表すように、基本的にイレイザーは実力行使の組織ではない上に、人間が妖魔とまともに戦って勝てる能力を有している割合自体が多くはない。だから、妖魔と戦うときはほぼ必ず罠や隙をつくなどのやり方が基本にして鉄版であり、正面から戦うことは皆無といっても過言ではない。
「人の子のやることは、いちいち回りくどいな。私の趣味ではない」
 そう小声で独りごちたエスペランサは、他の妖魔との戦いに関しても、本当にただ面倒だと思っているのだろう。同族と戦う嫌悪などがあるとか、戦いに関する気負いなどは微塵も感じられない。
 そういったことを感じる道理も、またないのだろうが。これまでに会ってきた他の妖魔と、エスペランサの格の違いはあまりに歴然としていて、まともな戦いにはなりそうもないし、本気を出せば一瞬で終わることがほとんどなのだろうから、いちいち策を練るという行為自体を面倒だと思っている。
 そういう人事みたいな態度なのは、実際のところ彼女はワタシこと結樹に同行するためだけにイレイザーの任務についてくるのであって、ワタシへの致命的な攻撃以外には一切関与しない。本当にワタシ以外は誰が死のうが関係ないといった態度そのものである。
 それでいて、ワタシへの致命的な攻撃に関しては、見えないところでも確実に防いだ上で、ワタシの様子を伺うことに専念している。それ以外には一切興味がない。
 それならそれで、ワタシが戦闘に参加することをなぜ拒もうとしないのかといえば、ワタシが戦闘に関する知識や経験を積むことを目的としているからである。それはワタシ自身の目的と一致しているからいいのだが、せめて他のメンバーにもそれなりのフォローをしてもらいたいものだ。だが、そんなことは断じてしない。
 しかも、ワタシ自身の戦闘査定に関する不始末にはそれなりに厳しいようで、致命傷でない傷で済みそうな場合には、そのまま介入せず見ているだけのこともよくある。それでいて戦闘終了後にはワタシの傷を治すことは忘れない当たりは、本当にどういう行動規範で動いているのかが、よくわからないのだが。
 エスペランサに言わせると、『裸体を舐めますように見て成長という変化を含めて愛でたいのだから、肌などに傷が残るのは絶対に許せない』らしい。
 たしかに裸は毎日見せ合っているというか、基本強制的に見られているのだが、ついでにワタシ自身が見えないところまで見て触られて愛撫されているわけなのだが、それなら最初から戦闘に加わるとか補助位はするとか、そういうことは一切ないあたりが理解に苦しむ所以である。


「ユウキくん、これから詳しい概要を話すから、集中してくれるかな?」
「真田さん、すみませんでした。気をつけます」
 真田が若干考えにふけって会話の聞き取りが疎かになりそうだったワタシの意識を、これから行われる作戦会議へと引き戻した。
 予断ではあるが、エスペランサは基本的にワタシへのセクハラめいた発言だけでなく、こういったちょっとした注意にも実は反応しているらしい。らしいというのは、ワタシ自身には分からないように発言者にプレッシャーを与えているようで、それを真田経由で知ったからである。付け加えると、実は真田は少ない例外らしく、よほどのことがない限りはそのようなプレッシャーを与えられたことがないらしい。
 エスペランサにも、一応はワタシ以外の人間に関して多少の興味というか線引があるらしい。
 ちなみに、ワタシに関して秋波めいたことをほのめかしたりした人間が、どのような制裁を受けたかについては、流石に真田も口に出さなかった。巻き込まれた人間にはご愁傷様という他にない。
 ワタシ自身にも、パートナーとみなされているエスペランサの手綱を握ることなど、不可能なのだから



続く





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百合ブログ小説:アカキキズナとムスビメと 第一章・二節 [百合小説:ブログ小説]


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第一章 二節 あるいは始まりからのその後



 幼かったワタシは、その後公式記録から存在を抹消するための組織『イレイザー』に『拘束』されることになった。『保護』ではない。存在を抹消するにはワタシの年齢などを考慮して、感情的に忍びなかったのもあるのだろうが、かといってワタシを解放してから公式記録を抹消すれば、ワタシの存在から綻びが生じるということもあったのだろう。
 もっとも、それ以前にワタシとともにいた『存在』が非常に厄介だったために、存在自体を『抹消処理』するという選択肢が取れなかったというのも、大いにあったと考えられる。『イレイザー』という組織にとって、その『存在、俗にいう吸血鬼や鬼』という類は、率直にいって戦力的な問題から敵対するには厄介過ぎる存在だったのだ。

 それはいまも変わっていない。ワタシは現在も『イレイザー』に『庇護という詭弁と建前の拘束』を受けている。ただし、ワタシとワタシとともにある『存在』が組織に協力し、そして組織のことを口外しないということを誓約し実行している現在、『イレイザー』はワタシたちを特別待遇で受け入れることにした。
 戦力の一部として機能している限り、ワタシは彼らから『補給物資』と『教育』を受けることが可能となったのである。それは、ワタシを気に入った『存在』が常に傍らにいるという事実を利用した、取引だった


「ああ、ええとエスペランサさん?」
「なんだ、人の子よ」
「貴方自体に用があるわけではないのですが、ユウキさんに用がありますので、一緒に『学習室』に来てもらえるでしょうか」
 『学習室』というのは、この組織の隠語であり実際には会議室である。組織として活動するのは基本的には事後処理と公式記録などの改竄が中心なのだが……いや、中心だったが正しいのか? 今はワタシと、なによりワタシと共にいるエスペランサを戦力として組み込むことが出来たために、場合によっては事前に阻止行動をとる、あるいは事件の事後の処理にそれを起こした対象の処分を加える、といったことが増えてきた。
 とはいえ、ワタシたち以外の戦力がそれほど潤沢なわけではない。本来は、記録改竄や『目撃者などの記憶を催眠術も併用する術式で操作する』といったことを行うことの専門家である。
 妖魔の類と戦うための戦力ではなく、どちらかというとそういった事後処理のための『護衛』として期待されている戦力がほとんどだ。そして、ワタシたちもそういった本業の戦力として呼ばれることも少なくはない。
「了解しました、真田さん」
 エスペランサとは、ワタシを助けた妖魔が自らなのった名前である。とはいえ、実際にはコードネームのようなものなのだろう。ある方が便利だから、便宜上そう名乗っているに過ぎない。
 とはいえ、『その女帝という自称に偽りなし』と呼べるほどに、エスペランサの戦闘力は圧倒的である。相手方の妖魔やイレイザーの面々も、戦闘の心得があるものはすぐに察しがつくらしく、まともに戦おうという選択肢は存在していない。
 ……とはいえ、実のところエスペランサとイレイザーの中には彼女と戦おうとした者もいないわけではない。ワタシとエスペランサが最初にあったとき、既に現場近くにいたイレイザーの面々は事後処理を行うためにもワタシとエスペランサを排除しよう、と画策した者もいたのである。
 その人物は今も生きているが、ほぼ一瞬で無力化された。まともな戦いにすらならなかった。全員戦闘態勢はとっていたが、その中で戦闘を行おうとした者はその瞬間に地べたに這いつくばるハメになった。エスペランサが自分から敵意がないことを伝えたとき、その場にいた者は彼女を信じたわけではない。
 単純に、従わなければ抵抗すら出来ずに死ぬ、ということが分かっただけである。最も、今ワタシを呼んだ真田のように頭のキレる人間も現場にいて、その人間に言わせればそれだけの戦闘力を持った存在がわざわざ小細工をする必要はない、即ち提案そのものが罠ということはまずないだろう、という考えもあったらしい。

 結果からいえば、その公算は正しかったといえる。エスペランサとしては、単にワタシを生かしておくには、人間の協力者が必要だと判断しただけのようではあるが。それも、協力者は多いほうがいいというそれだけのことに過ぎないようだ。
 ついでにいえば、彼女は実のところ面倒事や厄介事などが嫌いであり、その上同族を狩ることに忌避はないが、ワタシを戦わせて楽しみたいという理由で、自分が戦闘に積極的に参加することは皆無である。
 最も、一応ワタシの面倒その他雑用を『イレイザー』が担当するという条件と引き換えにか、イレイザーの面々が負傷しそうな場合のみ、その力を嫌々ながら行使することがある。
 それが、ワタシたちが信頼されているとは言いがたいが、任務を任されるくらいには重用されている理由である。

 ワタシ自身としては、妖魔を屠ることそのものが自身の存在理由であり、なにより生きがいを感じる時間でもあるから、この境遇を不満に思ったことはないのだが……


続く





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今までのブロブ小説の活動中止に関するお詫び [百合小説:ブログ小説]


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今まで更新が無かった上に、新シリーズを始める代わりに旧シリーズは未完成で放置することが決定しました ということで、もはや謝る事以外出来ません。大変申し訳ありませんorz!

 旧シリーズを書きかけで放置することに関しては、言い訳は致しません。設定などはしっかり考えてラスト辺りの展開も一応設定だけは考えていました。
 が、かなり長いこと活動休止していたこともありまして、旧シリーズをいまから書いて面白く仕上げられるのか? という点で考慮した結果、私の実力では到底不可能だという結論に至りました。
 元々、百合とロボット物を融合しようと画策した結果ではありますが、そのせいで百合成分が薄くなってしまったと内心感じていたのも、理由の1つではあります。
 百合とロボット物を両立させつつ過去に考えた設定をしっかり頭で構築しなおして、面白い作品に仕上げるというのは、私にはとても身の丈に合わないことでありました

 というか、ロボット物の方に力を入れすぎている感もありまして、正直その点も今となっては反省すべきかなと感じております。
 新シリーズの方はその点をしっかりと見なおして、百合として見れる作品をまずは何作か書いていけたらいいな、と考えております。

 ということで、今までのシリーズを見てくださっていた方には、大変申し訳なく思っておりますが、なにとぞご了承ください。
 一応、設定としましては主人公機が最終的にノーマル装甲と質量変換によるエネルギー装甲を試験的に採用した、短期決戦用の形態で最終決戦、という流れになっていました。
 百合作品の機体がゴテゴテしているのはどうかというのもありますし、私自身どちらかというと女性的な印象を与える、細身の機体が好きっていうのもあります。最後まで書いて面白く仕上げるのが困難だという考えに至り、投げっぱなしになることは私としても残念なのではありますが。
 かといって、書いただけの作品になりそうなものを無理やり仕上げるというのも、それはそれでどうかというのもありまして、今回のような措置になりました。ひとえに私の力不足です。

 今後は、定期的に内容を更新していく予定ではありますので、今後はまたご愛顧いただければ幸いです




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百合ブログ小説:アカキキズナとムスビメと 第一章・一節 [百合小説:ブログ小説]


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第一章 一節 もしくはプロローグ


 始まりはアカイ炎だった。それが私達の始まりであり、同時にそれまでのワタシの終わりでもあった。
ワタシはまだ幼く、そしてそれ以上に無力だった。小さな小さな、山林と自然と緩やかな人間の衰退に満ちた集落で、ワタシたちは生きていた。
 そう、そのときまでは……今となってはただの記憶、忌まわしい記憶の残滓でしかない。実際、その集落の末期については公式の記録には残っていない。
 『妖かしや怪異、妖怪や怪物』と呼ばれるものを、私達は現代科学と淡い幻想を含んだ常識という知識で否定している。
 だが、この国家には秘匿されるべき存在が、厳然として存在しているのである。だが、その存在はあまりに強大であり、かつそれでいてあまりに局地的な被害であるから、大抵の国はその存在自体を表にすることをしない。
 内々で見なかったことにするか、あまりに調子に乗ってでしゃばってきた愚か者を討伐するのみで、私達のような『僅かな被害』については、そもそも生存していたという事実そのものをなかったことにする。
 その方が、結果的に被害が少なくて済むし、なにより楽なのだ。それが、この国の上層部の認識というものであり、常識的な判断なのだった。

 ワタシが覚えているのは、家族とその隣人たちが寄り添って生きてきた証たちが、アカイアカイ炎に包まれて消えていく姿だった。死人による腐臭もその炎にかき消されていく。
 そもそも、なぜワタシは生きていたのかが分からない。単純に運が良かったとも言えるのだろうが、他の者達はそもそも炎に包まれる前に血飛沫でアカク染まっていたのだ。
 なぜワタシだけが血飛沫でアカク染まることが無かったのか。その謎は未だに解けていない。どの道、そのままではワタシも遠からず、炎にアカク染まって死にゆく運命ではあった。
 ワタシは、家族の変わり果てた姿を魅入るようにして、粗末な一軒家に留まっていたのだから。炎に彩られたその家は、もしかすると今までで一番美しい我が家であった瞬間かもしれない。

「いっしょに来るかい?」
 その女は、その声を発する瞬間まで我が家にはいなかったはずだった。クライ色に全身を包みこんだ、不吉な気配の女だ。ただ、その女はそれでもなお惹きつけられ、魅入ってしまうほどに美しい女であるし、なによりそのときのワタシにとって最も魅力的な言葉を投げかけて来たのであった。
「仇を討ちたくはないかい? 全てを奪った相手から、逆に全てを奪いたくはないかな? 私とくれば、そのための力をあげよう。いつか、機会があるかもしれないよ?」
 いまから思えば、馬鹿な話である。この女は力をやるとはいったが、仇を討つ機会を与えてやるとはいっていない。機会が訪れるやもしれない、という実に曖昧な言い方をしているのである。
 だが、ワタシにはどの道それ以外の道は残っていなかった。後になって分かったことだが、ワタシはワタシ自身の記録さえ公式に抹消されていたのである。家族もなく、家族の記録さえ公式から抹消された幼い存在に、他にどう生きる道があるというのか?

 『それでも、このとき死んでおくという自由はあった』
 後になってそう思うのは、この女もまた悪魔のように狡猾で、この取引も悪魔の取引に過ぎなかったからである。この取引に代償が必要だったことが分かったのは、ワタシが頷いてこの女とともに自らの故郷を後にした、その後になってのことであるからだ……


第二節に続く




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百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 断章 フラグメント3・カタシロによる多戦術機構構想 [百合小説:ブログ小説]


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白騎融合合体ロンギフローラム 断章 フラグメント3・カタシロによる多戦術機構構想



 形代唯にとっても、多戦術機構をこのような早期に晒すことになるとは、想定外の出来事であった。その多戦術機構の操縦に、天田空が迅速に適応できるだけの対応力があったことも、予想外の出来事であった。ただ、そちらはうれしい誤算といえよう。
(これなら、他のフレームもそのまま実戦投入できそうか?)
 重フレームは、多数の敵機に対応するために、防御力を極限まで追求した追加フレームである。形代唯が構想したヴァリアブル・フレームの中では、最も重量があるために運動性をカバーしきれていないという欠点はあるが、莫大な推力を利用することで突進による速度は相当なものになる。つまり、防御力にものを言わせて一気に懐に飛び込むのが、このフレームの基本戦術なのだ。
 多数の盾型力場シールドを機体を覆うように形成するこの機構は、追加フレームにより実現されたものであるため、全く違う性質の機体へ換装することが可能である。その性質の違いに対する適応力については、前回の戦闘である程度保証されていると、形代唯は考えている。

(とはいえ、汎用フレームはともかく高空戦フレームと切り札の方には、対応しきれるかどうか……)
 ヴァリアブル・フレームによって機能を追加された後の汎用フレームは、全能力のバランスを追求したフレームである。いままでの基本フレームと汎用フレームには、それゆえに若干大きさや機能、性能に違いがある。とはいえ、性能は大部分は大きく向上しているものの、機体バランスに大きな違いはないので、ソラが扱い切れないと判断した場合には、汎用フレームのみを使用するつもりではあった。
 もっとも、本来の想定では単体から少数の相手を想定したフレームであり、その性質は元々の素体と極端には変わらないのもネックだ。重量も比較的抑えられており、かなりシンプルなフレームである。こちらは、素体の操縦と基本は大差ないが、対応出来る状況は多いものの性能を活かして戦うにはあまりにバランスが良すぎて、かえって仇となるケースもあるだろう
 問題は切り札である特殊フレームと、高速空間戦闘型フレーム、略して高空戦フレームの方だ。特殊フレームはまだ詳細は煮詰めきれていないが、切り札として考案しているために、かなり極端かつ絶大な戦闘力を秘めたフレームになることが想定されている。ソラが扱いきれるかどうかも問題だが、その性能を実現するための設計、および稼働時間の確保が課題になっている。
 おそらく、稼働時間は完全な解決は不可能だろう。短期決戦のみを追求したフレームになる予定だから、それ自体に問題はない。ただし、現状では半時間持たせるにも苦労するレベルである。自分が考えつかなかった外部フレームなどの追加によって、それは改善される余地はあるだろうが、流石に少々稼働時間が短すぎる。
 高空戦フレームの方は、地球以上の高重力圏および宇宙空間などの無重量空間などを想定しているフレームである。運動性の確保を最優先したフレームで、空間戦闘では無類の性能を発揮するだろう。ただ、重フレームとは真逆で防御力に関してはあまり高くない。回避と高い運動性能による接近を実現するために、推進用の力場にかなりの部分を使用しているためだ。
 重量は汎用フレームより上なのだが、とにかくほぼ全身が推進用のフレームであるから、高速機動戦闘においては全フレームの追従を許さない。重フレームの突進性能も、この空戦フレームとほぼ変わらないほどに、機動性に関しても高いものがある。
 重力圏からの脱出も容易に実現できるだろうが、その圧倒的なまでのスピードと戦闘機動能力が仇となって、かなり扱いづらいことが予想される。とはいえ、無重量空間や高重力空間では、他のイマジネイターとの機動力の違いが鍵となるのは、間違いないだろう。
 実は、ソラには明確に話したことはないのだが、他のイマジネイターと自分の基本的であるが決定的な違いは、地球などの大気や重力を持った空間における機動力の違いなのである。
 こちらは、地球に対する環境に配慮して機動制御を行なっているが、他のイマジネイターのほとんどは環境に配慮しているというよりは、そこまでの機動力を実現出来るだけの空間力場制御能力を持っていない、という方が正しい。
 つまり、端的に言って他のイマジネイターは宇宙空間などの機動が阻害されない場所でなければ、こちらに追随するほどの速度がそもそも出せない、ということなのだ。
 だから、地球では重フレームを使用しても決定的な機動力の差が出来ない。防御力場の生成に特化したフレームによって、機動力が同等であるのに防御力において決定的な差があるのだから、こちらが圧倒的に有利であることは、疑いようがない。
 ただ、宙間戦闘においては機動を阻害する要素が地球ほど多くはないために、重フレームのままだと機動力に違いが生じることは十分考えられる。更に、前回の戦闘からこちらに通用するだけの火力を有した個体を運用してきても、おかしくはないのである。
 宙間戦闘においては、向こうの機動力が上昇する(というか、本来イマジネイターは宇宙に生息する生物である)であろうことを考慮すると、その分を火力に回した個体の配備まで考慮すれば、宇宙空間で重フレームを使用するのは危険だろう

「高空フレームの完成を急がねばな……」
 問題は、ソラがいままでとは全くことなるほどの高速戦闘仕様に、適応出来るのかという点である。だが、重フレームのままではいい的になりかねない。汎用フレームは決定的な利点がないために、戦闘力では格下であるが多数で構成された相手に対抗するには、若干苦労するだろう。
 これは唯の予感でしかなかったが、連中はいつか宇宙でこちらに戦闘を仕掛けてくる。これは予想する材料さえない夢想に近いものだったのだが……
 

白騎融合合体ロンギフローラム 3章 生まれ落ちた悪意の星屑たち 1幕 へと続く
 


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百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 断章 フラグメント2・エルトリア会議』 [百合小説:ブログ小説]


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白騎融合合体ロンギフローラム 断章 フラグメント2・エルトリア会議



 サラ・テンペストが後に『エルトリア』と呼ばれるテロ組織の基礎を作った人物であるという事実は、実はエルトリアではあまり認識されていない。『イマジネイター』であるはずの『オルクス』があまりに冷静で的確かつ厳格な性格をした、カリスマと呼べる存在であるために、そのパートナーであるサラがリーダーであるということは、象徴的な意味合いだと思われているのだ。
 しかし、サラは特にそのことを訂正する様子はない。初期のメンバーもそのことは承知しているが、彼らは特にそれを訂正するつもりはないらしい。実際に、作戦の立案などは現状オルクスが率先して行なっているため、実質的に害がないからであるが。
 ただ、オルクス自身としては心外である。黒目に長いストレートの癖のない黒髪、若干浅黒い肌とその体を覆うピッチリと張り付くようなライダースーツのような見た目の黒服と、その長身と怜悧な印象を与える顔立ちは、全体的に冷徹な印象を与え、まさしく黒ずくめの美しい死の女神といった風情だ。しかし、彼女自身が率先して組織を率いているわけではなく、彼女自身はサラの願望を叶えることを第一に行動しているのである。
 つまり、『エルトリア』の作戦遂行はサラの願いであることから、組織としてエルトリアが機能するように働いているのであって、自身が率先してエルトリアの指揮をとるつもりなど、彼女には毛頭なかったのだ。
 ただ、周りはそうは見ていないことは薄々ではあるが感づいていて、なおかつサラは聡いが若干直情的な性格であることも熟慮していたオルクスとしても、その方が都合がいいだろうという判断のもと、それを訂正することはなかった。


「しかし、その齟齬が問題にならないというのは、いささか込み上げてくるものがあるな」
 オルクスは、自身のパートナーへそう言葉をかけた。普段は無駄なことは喋らないと認識されているオルクスであるが、別に彼女は沈黙を至情としているわけではない。話しかけられれば、当然雑談程度は割り気軽に応じる。というより、人間観察が趣味と自称している彼女はむしろ歓談に積極的に応じる気でいるということは、彼女の容姿の冷徹な印象が災いして周知されていないことである。
「私は全く気にしていないけどね。それよりも前回の作戦の方はどうなったの? 成果は上々?」
「同志の犠牲による成果、か。なぜそのようなことを気にする? 我々に出来ることは結局のところ、同志が自らを犠牲にして入手した情報を元に、最高の成果を上げることだけだろう」
「それは分かっている。問題は、その情報がどの程度のものだったかという……」
「ワタシの言葉を理解していないようだな。ワタシは同志が命を賭して得た情報を、わざわざ査定するような真似をするつもりは毛頭ない。彼らの犠牲を尊重し、それに対して最高の成果を発揮することに尽力すること以外、ワタシは考えていない」
「……悪い。そういえば、あんた意外に仲間思いだったわね。見た目から勘違いされがちだけど。ただ、私は別に査定をしたいわけじゃない。その成果をどう活かすかを、協議したいだけよ」
「ワタシも少々言い過ぎたようだな。たしかに、その成果をどう活かすかは協議すべき事柄だ。しかし、ワタシが仲間思いとは、いささか引っかかる物言いだな。ワタシはリアリストなだけだ」
 オルクスとしては、犠牲を強いた責任を果たすこと以外に興味はない、ということを言いたかっただけなのだが。今生きている者たちに出来るのは、結局はその程度のことでしかない。彼らの犠牲に対して批評をしたところで、それで現実が変わるわけではないからだ。
「そうかしら? 少なくとも私には、犠牲になった者への敬意というようなものを、あんたに感じられるけどね」
「気のせいだろう……」
 オルクスは即座に一蹴したが、サラからすればむしろ自分以上に仲間意識が強いのではないか、そう思えてならないことが多い。少なくとも、サラはオルクスと話していてこういった仲間に関することで、しばしばオルクスから指摘を受けることがあるからだ。どうかんがえても、仲間を単なる道具としてしか見ていない者の対応ではない。
「……それよりも、成果の件についてだが。正直こちらにはかんばしくない情報が多かった。敵はロンギフローラムだけだが、連中はそれに多戦術機構を組み込んで運用することに、一定の成功を見ている。これは我々には不利な状況だな」
「多戦術機構? 戦術に応じて機能を組み替えるということ? しかし、相手は強力とはいえ単騎なのだから、こちらが相手の出方に合わせて戦術を変更すれば、十分に……」
「それは一般的な、地球製の機械に対する戦術論だな……向こうも『イマジネイター』であることを忘れるな。加えて『カタシロ』はとても強力な個体だ。形成する物体の構成を予め構築さえしておけば、それを瞬間的に組み込むことも可能だ。制限はないわけではないがな。とはいえ、多戦術機構は一瞬で組み換えが可能だと思っていい」
「つまり、こちらの出方に相手が柔軟に応じることが可能ということ? それはたしかに問題ね」
「しかし、その機構に関する情報は今まで無かった。これは、おそらくは我々の情報不足などではなく、いままで運用した経験がないものと推測している。従って、先日の情報から推測出来る機構以外に関しては、性能などは未知数だが。向こうもあまり運用の経験はないだろう。それだけが我々に有利な情報だな」
「なぜ、そんなことが分かるの?」
 サラは、オルクスにそう尋ねた。もっとも、サラにもある程度の推測は出来ていたが。どうもオルクスが参謀役のような役回りをするせいで勘違いされがちだが、別にサラが知的な考察を苦手としているということは、全くない。むしろ、そういった戦術的な考察などは、本来はサラの趣味であり娯楽でもあった。
 オルクスは、むしろサラのそうした趣味を参考にして、いまのような役回りを演じているのである。というか、サラたちからすると信じられないことだが、実はオルクスは頭を使う理論構築などの類のことは、むしろ嫌ってさえいるフシがある。必要だからというだけで、決して趣味ではないし好いてもいないらしい。
 ただ、見た目だけは大人しささえ感じられるサラ自身が話すよりも、怜悧な印象を与えるオルクスの方が都合がいいということも手伝って、オルクス自身がこういった考察を率先して語っているだけである。必要がなくなれば、オルクスは一切頭を使うようなことをするつもりはないだろう。
「それは、『コア・モジューラー』が戦闘を専門にしていた人間ではなかったからだろうな。多戦術機構に対応出来るだけの能力があるかどうかが、完全に未知数だったからだろう。しかし、カタシロも愚かなところがあるものだ。いや、過保護なだけか? 『コア・モジューラー』としての資質は、人間としての戦闘経験とは完全にというわけではないが、必ずしも比例するものではない。ヒト型ではあっても、完全に自分の肉体ではないものを扱うのだ。必要なのは人間としての戦闘力ではなく、モジューラーとしての適応力と柔軟性だ」
「自分と異なる異質な感覚を、自分のものとするための柔軟な感性……」
 それは、実はオルクスが常々口にしていることである。人間としての屈強さなど、このことに比べれば全くと言っていいほど重要ではないと、オルクスは常々口にしている。サラも、オルクスと何度か融合形態をとった経験があるが、全くもって同意である。
 人間として合理的な肉体の動かし方さえ、ヒト型ではあっても人間ではない『イマジネイター』の融合形態にとっては、必ずしも合理的でも有用でもないことさえある。より重要なのは、その形態の特性を理解した上で、最適な行動を実現することだ。そのことに関しては、多少は戦闘に関する知識が有利に働くこともあるだろうが、やはり相方となるイマジネイターの形態に関する理解が先にないと、それが有効に働くことはまずない。
「アマタ・ソラとかいったっけ。『コア・モジューラー』としては優秀ということかしら?」
「さて……そこまでは言及は出来ないが。事前に特性に関しては話を聞いていたかもしれんしな。だた、戦闘中に機体特性を理解したのか、動きが急激に変化していった。柔軟な感性の持ち主で有ることは否定出来ないだろう。コア・モジューラーに最も重要なものを、ソラとかいう人物は持っているようだ。自分とは異なるものを操るという感覚に、慣れるだけの搭乗時間があったというのも、大きな要因なのだろうが」
「私たちが、その多戦術機構を採用しないのは、それが理由?」
「どういう意味だ?」
「搭乗時間が足りないという部分よ」
 サラが気にしていたのは、どうやらオルクス自身も多戦術機構自体は検討していたフシがあるということだった。であるのにそれを採用しなかったし、おそらくはこれからも採用する予定は無さそうなのが気になるのである。手を抜いているとは考えない。オルクスが戦闘に関してそれを行うということは、おおよそ考えられない。
 ……実のところ、オルクスは戦闘に関すること以外は、存外ズボラである。少なくとも、勤勉ということはまずない。割りと戦闘に関すること以外には、むしろ積極的手を抜こうとする。その長身で冷徹そうな見た目とは、実に裏腹にである。
「そうだな。あとは、他のメンバーの適応力に関する問題と、『イマジネイター』自体の能力にバラツキがあることも理由だ。多戦術機構を戦場の変化に合わせて活用できるような存在は、あまり多くはない。それに我々には数的有利と役割を分担出来るという点があることも忘れてはならない。以上を考えると、ある程度役割分担に応じた設計を初めからしておくことが、一番だろう」
「私たちに関しては?」
「同様だよ。カタシロたちと決着をつけるとなると、我々が戦うことになることは、ほぼ確実だ。となれば、我々にとって最も適した設計の形態で挑むことが重要だ……サラ、お前よりも相手の方が、戦闘経験では確実に上というのも、理由ではあるが」
「私には使いこなせないと?」
「……ハァ……相手と戦うのに、わざわざ不利な条件で戦うことはあるまい? 言っておくが、多戦術機構を組み込むということは、こちらにも負担がかかる上に、特化した設計ほどの性能は発揮させれんぞ? 多戦術機構を装備するための機能は、素体の方に予め仕込んで置く必要があることは忘れるな。いくらイマジネイターとはいえ、そういった仕組みを予め組み込んでいない状態で、拡張機能を一瞬で装備することは不可能だ。継ぎ足しはともかく、形態の再設計にはそれなりに時間がかかる」
 オルクスは、呆れたような嘆息の後、子供をあやすような口調でたしなめてきた。サラからすると、そのオルクスの態度が、その言葉の内容よりもむしろカンに触るのだが。だが、オルクスがそういった口調でたしなめている理由は理解できる。コア・モジューラー同士で対抗意識を燃やすことは構わないのだろうが、それは闘志に変えるならであって、戦闘における戦術に個人的な感情を挟むなということだろう。
 オルクスは意外にサラには甘いことが多いのだが、こういった戦闘に関することに関しては一切妥協しない。戦うことそのものの理由は個人的な感情だろうと肯定するが、その戦闘方法には一切感情を挟むことはない。いつも冷徹なまでの理論のみで戦闘方法を考案するのが、オルクスの主義だ。
 オルクスそのものは戦闘狂ともいえる性格なのだが、その割にはサラなどよりもよほど手堅く戦術を考案する。戦闘をしたいという願望と、戦闘方法に関する考えはオルクスにとっては完全に別の事柄らしい。
「そう、じゃあ私たちはどうするわけ?」
「無論、我々に最も適しているとおもわれる戦闘方法に合わせて、最も一対一に適した設計を構築する。いままでの運用試験は、秘密裏に行う必要もあった上に、お前の慣らしという要素の方が大きかった。しかし、今後はある程度向こうの出方を予想した上で、それに対抗出来るだけの設計にまでクオリティを向上させる。一応、いままでの設計を煮詰める形にはなるはずだがな」
「大幅な路線変更は考えていないと思っていいわけね。基本的には出力が向上しただけと思っていいと?」
「そういうことだ。イメージトレーニングは欠かすな。今度の作戦は前哨戦だが、場合によってはある程度ロンギフローラムと交戦する必要があるやもしれん……他の連中で必要な時間を稼げるかどうかは、未知数だからな」
「分かった。今度の作戦が成功するかは、私たちにかかってくるかもしれないわけね」
「そうならないように、作戦は考えるがな」
 オルクスは、そういった皮肉を言うことも忘れなかったが。しかし、オルクスの言うことは一理ある。作戦はうまく行かなかったときの保険を考案しつつも、あくまで最も効率的な作戦を遂行可能なように立案するものだ。保険はできるだけ使わないで済む方が望ましい。同時に、計画の立案は保険を使わなくてもうまくいくと、楽観的に考えることは厳禁でもあるのだが。
 とはいえ、私たちはあくまでうまく行かなかった場合の保険であって、出番がないほうが当然望ましい。
 それに、交戦するような事態になれば、向こうの実力を把握できるものの、向こうにもこちらの戦闘方法などをある程度推測させる材料を与えることにもなる。それは、こちらとしては避けたいことなのだ。
「おそらくは、こちらの最終調整には間に合わない。それに設計が終了しても、その慣らし時間が皆無で戦闘することは避けたいからな。今回はあくまで前哨戦だ。我々の決戦には、それなりにふさわしい状況を整えてから挑むべきだろう」
「分かっている。そのために、エルトリアはいままで活動してきた。それに、その決戦が私たちの計画の終わりではないからね」
「……そうだな」
 そういうと、サラはオルクスの唇に自らの唇を合わせた。オルクスは表面上は気のないふりをしていたが、サラの口蓋を強引にこじ開けて、中を温かいもので蹂躙してくるあたり、案外ムッツリすけべなところがある。サラの体に興味があるなら、自分から接触すればいいのに、それをしないあたり、奥手で可愛いところもある。と、サラは勝手にそう思っているのだが。オルクスがそれを聞いたら、おそらくは憤慨するだろう。
 しかし、それにしてもオルクスからすると、カタシロらとの決戦以降のことなどどうでもいいことなのだろうが。サラにもそれは用意に察することが出来た。しかし、だからといって興味のあるカタシロとの決着以降のことを、完全にいい加減なままに投げ出すようなことも、まずはするまい。

 この『エルトリア』を司る死の魔神、『オルクス』は意外に義理堅い人情家なのだ。少なくともサラはそう思っているし、実際にオルクスは義理堅い面を感じさせる機会が、案外多いのだった。


白騎融合合体ロンギフローラム 3章 生まれ落ちた悪意の星屑たち 1幕 へと続く
 


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百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 3幕』 [百合小説:ブログ小説]


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白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 3幕

 

 そのとき『オルクス』は、『LHF』と特別に呼称される存在が倒される寸前まで押されているという事実を、無感動に受け入れていた。しかし、だからといって、これで終わりなどとは考えていない。
 それほど付き合いが短い相手ではない。カードをどこまで切ってくるのか? どこまでデータ収集ができるのか? 『オルクス』にとって気になっているのは、あくまでそのことである。
 この程度で終わるわけはあるまい。これは所詮始まりの前の準備に過ぎないのだ。それを向こうも承知しているから、加減をしている。一喜一憂はできない。
 これは所詮駆け引きなのだ。



 天田空はそのとき確かに死の予感を感じ取っていたが、一番感じていた感情はその死への恐怖などではなく、人間を載せた『イマジネイター』を自爆させてしまった、つまりは殺してしまったという事実である。
 そして、この人間と『イマジネイター』の死を駆け引きの道具としている存在がいる。その事実への怒りであった。だから、天田空は吠えるのである。その思惑に今は踊らされるだけの自分たちを。自分たちの同胞を見捨てざるを得ない無力な自分を、叱咤するために。そうでなければ、きっと心が折れてしまう。

「うあぁぁぁぁ!」
 その叱咤とともに、『ロンギフローラム』は海中へと落ちていった。いや、わざと海中に向けて高速移動を開始したのだ。その海中への侵入の際の衝撃は相当なものであったが、それを全く意に介することもなく、空は『LHF』を高速で海中の深くへ潜らせていく。
 それはとっさの思いつきに過ぎなかったが、ある種の確信もあった。おそらくは海水の方が空気よりも抵抗が強いことと、狙っている最中に海水に入った場合は、おそらくはセンサーなどの切り替え作業で狙いが甘くなること、更にはフォーメーションを組んで囲んでいたとはいえ、海中から狙っていた機体はおそらく存在しないだろうこと。
 そういったことを加味すれば、海中に入ることで狙い自体が甘くなる上に、特に射撃武装による力場の攻撃力が減衰し、しかも攻撃の方向自体をある程度限定することが可能となるのである。
 最も、向こうよりは速く動けるとはいえ、水中はこちらにとっても移動しやすい場所ではない。このまま逃げ回れば逆に追い詰められかねないということも考慮すると、あまり長い間潜っているわけには行かないだろう。
「ソラ、ここは一旦退却……」
「唯、ごめん、リミッターを解除して」
「ソラ! あれは、慣性制御を含めても、地上に被害が出ないように出力配分すれば、中にいるソラにまで負担がかかるといったはずだよね?!」
「そうだね。でも、このままでも『HF』の自爆は止められないんでしょ? だったら、その分を戦闘力に回せば……」
「それは……分かっているのソラ! 相手が自爆しているからって、中には人間がいるんだ。ソラはそれを知って悲しんでいるでしょう! だったら……」
 唯がそこで、言葉を不意に区切った。不自然な切り方だったから、それで言ってはいけないことを口にしたと思っているのだろう。唯の言葉は、私の考えがほぼ正しいということを、肯定しているも同然なのだ。『イマジネイター』や人間を分離して再構成させるのには、実はかなりの余力と若干の間がいる。
 今回は、中の『コア・モジューラー』である人間か、『イマジネイター』自身が特攻による自爆を敢行しようとしているようだから、再構成を行えるように手加減して相手の戦闘力を奪うのは、ほぼ不可能だ。
 だから、ロンギフローラムが常に相手を再構成するために温存しておく余力を、戦闘力に回していけば、いまの状況はもう少しマシなものになるだろう。ただし、『人間とイマジネイター』両者を救える僅かな可能性さえ、おそらくはなくなってしまう。
 それに、リミッター解除まで加えた戦闘状態は、最初の戦いに慣れていない頃と、緊急事態への対処の瞬間のみで、長時間使うような場面で使用したことはない。しかも、正直今でも長時間使用していられる自身はない。
「でも唯、私は嫌なんだよ……無力な自分も、出来るかもしれないことを、出来ないかもしれないって諦めることも! 『イマジネイター』も『コア・モジューラー』は救えなかったとしても、今ここで倒しておけば救えたかもしれない人が出るかもしれないんだ! だから! だから! お願い、唯!」
「分かった……ただし、リミッター解除はしない。少し早いけど、拡張機能を開放する。ただ、微調整が終わってないから、それでも危険なことには変わりがない。でも、再構成が出来るかもしれない余地は残るよ」
 私は、危険だとわかっていたけれど、外をみるよりも中にいる唯を見る方に意識を集中させた。そうして、唯の頬を私の両手で慈しむように、包み込んでいく。
「ありがとう。私のわがままに付き合ってくれて」
 唯は理由もなく、出し惜しみをするようなタイプではないから、きっとそれなりに理由があってのことなのだろう。だから、これは私のわがままのせいで唯の考えを台無しにしてしまった、せめてものお詫びだった。
「いいよ。ソラにただの人殺しは、させたくない」
 きっと、それも理由だった。私がただの人殺ししか出来ない状態になってでも、今ここで被害を食い止めておきたいということを、唯は読み取った。その上で、私に『両者』を救う余地が残るようにしてくれたのだ。それが、自分の計画に支障をきたすことを承知した上であることは、想像に難くない。
「唯…行こう!」
 攻撃は、激しさを増しているが、今はまだ機体の前面を覆う程度に縮小した状態で防御ができている。こちらの出方が罠かもいれないと警戒して、すぐには別のパターンに移るつもりがなかったのだろう。だが、私達がカードを切ることにした瞬間に、向こうも攻撃のパターンを変えてきた。S2、『近距離型2番手』がナイフを手に海水に侵入してきたのである。
 様子見もあるだろうが、近距離型を先行させることで最悪近距離型を1騎潰しても、それでこちらの出方を観察しつつ、射撃用の観測を行うつもりなのだ。だが、それはさせない。
「エクステンショナル・VF、装着!」
 前回とは違い稼働できる装甲がスライドしていき、『VF(ヴァリアブル・フレーム)』を装着させるための機構が露出する。普段は防御力の低下を抑制するために露出しないようにしているが、そこにある拡張機能を装備するための機構、ハードポイントを露出させる。
 そこに装着されるパーツは、唯がこれまでの間に開発を進めて来たものであり、機体の総合的な性能バランスはともかく、重量バランスの変化による操作性のズレを修正できるかは、私の手腕が問われることになる。唯がこれを出すことを渋っていたのは、未完成とはいえ性能を晒すことの危険性を考慮してのことだろうし、操作性のズレを実戦で修正することが私に負担をかけることをおそれていたのだと思う。
「VFは機構を変化させる事が出来るように設計してあるけれど、これはまだ完成していないから、実質的にこの対多数用の重フレームしか使えない。ごめんね、ソラ」
「大丈夫、これならきっと頑張れる! 戦える! 救ってみせる!」
 起こった変化はそれだけではない。現在は重フレームのみだが、本来の多戦術対応フレームを装備するためには、素体を多少いじる必要が出てきたため、実は素体の操作性を出来るだけ保って装備するためには、素体そのものを大型化する必要が生じたのだ。
 それによって慣性制御の難しさそのものは向上するし、運動性も下手をすれば低下するが、それ以上に大型化による力場形成能力の向上と力場の瞬間出力の向上を私が制御しきることが出来さえすれば、これはいままで以上の運動性を確保しつつ、様々な状況に対応が可能となった。
「あとは、私次第……!」
 その情報と感覚は設計担当の唯から伝わってきたが、確かに前に比べてフレームのみならず機体そのものが大型化しているために、機体全体が全身を覆う鎧をまとったように、かなり大型化している。しかも、操作性の難しさは言われるまでもなく、感覚の違いとして伝わってくる。
 だが、同時に感じる、この獰猛とさえいえるほどの、凶暴的なまでの出力上昇による感覚は、むしろ高揚感さえもたらした。
「どけぇ!」
 海水を割りながら侵入してきたS2が、こちらを補足しつつ、こちらの変化がどういったものかを見定めようとしている。その瞬間を狙った。
 それは『ロンギフローラム・ハイブリッド・ヴァリアブル・フェイズ』とでも呼ぶべき新しき融合形態は、まだ届くはずもない距離で右腕を振るう。その動作で、海が裂けていく! モーゼの十戎とまでは行かないが、一瞬でS2までの海水は吹き飛ばされ、その余波でS2は破壊されこそしなかったが、完全にスキだらけだった。
 そのスキに、力場を利用して跳躍する。大型化しているとはいえ、最大出力で優っている機体が全力で加速を行えば、前進のみなら前以上の速度を確保することさえ出来る。その跳躍で、スキだらけのS2の胸ぐらを左掌で押しやり道を開けさせながら、同時に『イマジネイター』を分解再構築するための力場を発生させる。
 前よりも早い速度で展開が出来るようになったその力場により、『S2のイマジネイター』は一瞬にして原型を維持できなくなり、中にいた人間を開放されて、まともにヒト型として動く機能を消失した。


 統率者として、『オルクス』はその様を見ていた。カタシロの新たな手札を見れたことに満足しつつ、しかしあれが切り札ではないことも瞬間的に理解した。明らかに造形に余裕がある。他の機構へ組み替える余裕をもたせていることは、『オルクス』にはひと目で理解できたのだ。
 ちなみに、『オルクス』は基本的にそのようなことは計画していない。こちらの方が数で優れているというのもそうだが、長時間パートナーを組んでいるから微妙に操作感の違いが生じる、あのような多戦術対応機構を組み込んでも対応が出来るのだ。短時間でそれなりに戦えるように訓練を行う必要がある、『オルクス』が所属している組織には、そのような機構はあってもまともに使いこなせるようになるものは、おそらくはいまい。
 だが、それでも向こうがそういった機構を開発していたということを、事実として確証が得られたことは、大きな収穫といえた。そして、同時にこれ以上を引き出すことは不可能だということも。だから、彼らに命じる。
「同志よ。戦え、思うままに」
 それが、この戦いに『捨て駒』として臨んだ彼らにとっての、最大のはなむけである、と『オルクス』は信じている。


 その瞬間、『LHVF』の内部で小さな爆発が起こったことが確認された。それがなにを意味するのか。私は考えたくはなかったが、唯は無慈悲にもそれを指摘した。
「中に取り込んだ人間が自爆した。だが、大丈夫だ。融合形態への機能には一切支障はない。ただ……」
 中に取り込んだ人間は、そのまま死んだのだろう。同時に後ろの方でも爆発が起きたのが確認できた。こちらも『ロンギフローラム』へダメージを与えられるような爆発ではない。完全に自分たちの口を塞ぐためだけの自爆であることは、もはや明白だった。
「無理なんだね……」
 出来れば、敵であっても救いたかった。ただ、それは無理なのだということは、このことで理解出来た。
「ああ。ならせめて、向こうの望むままに戦ってやろう」
「分かったよ、唯」
 唯にとっても、『イマジネイター』は同胞なのだから、自爆がショックでないわけではないのだ。それでも、唯はなすべきことを見極めている。
 私は、その思いに応えなくてはならない。
「空中に出るよ」

 そこからの戦いは、ほぼ一方的な展開だった。いままでよりも大型化している関係で、鋭角に鋭敏に機動運動を行うことは困難だったが、緩やかに回避運動をとりつつ、スキを見て1息で接近することはむしろ楽になっている。
 力場による防御能力の向上と、現在のフレームが対多数専用で、攻撃力よりも多数からの牽制を防御するための防御力重視型なのも大きかった。遠距離型は容易にこの力場による防御を突破できない状態になっている。
 唯一遠距離からの牽制を防ぐ常時展開型の力場を突破可能な貫通力を持つ、ナイフ装備の近接型とは距離を維持しながら、スキを見て遠距離型へ接近して一気に拳と蹴りで粉砕しながら、包囲網からの離脱を繰り返す。
 こちらの一撃離脱を止められるような装備をした機体は今のところはいなかったため、その作戦で遠距離型を失って援護を受けられなくなった近接型も、すぐに撃破されていった。おおよそ、近接型は遠距離型との連携を前提にしたものだったので、遠距離型の援護がなくなればもはやスキだらけの機体に過ぎない。
 そうして、全て機体を粉砕し終えた私には、もはや高揚感など欠片もなかった。被害こそ食い止められたが、すべての敵が自分の口封じのためだけに自爆していく姿を見れば、もはや空虚な虚脱感以外にはなにも残らない。
「それでも、勝ったんだ……ごめんね、唯。予定にないことをさせちゃって」
「いいよ。わたしこそごめん。ソラはちゃんと私の設計の違和感にも対応してくれたね。正直ここまで適応してくれるとは思ってなかった」
「私たち、お互いを信じてなかったのかな?」
「そうかもしれないね。ソラは私が思った以上に成長してたから」
 だが、これで相手にも手の内をさらけ出してしまった。唯ほどではないが、私にもそれは分かる。きっとこれで終わりではないのだ。次は何があるのだろう? これだけのことをしたのだから、きっと今度はもっと大掛かりなことが待っている。

 今は、その予感以外には、確たるものはなにもないのだ。悪意は今も、確実に胎動を続けている……そのことだけが、分かっていることだった。


白騎融合合体ロンギフローラム 3章 生まれ落ちた悪意の星屑たち 1幕 へと続く
 


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百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 2幕』 [百合小説:ブログ小説]


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白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 2幕

 

 そろそろ仕掛ける頃合いかもしれない。そういったのは、『オルクス』自身であった。しかし、懸念材料もある。
「あまり、考察材料を与えるべきではないだろう。『イマジネイター』において、スターゲイザーの異名をいただくものが、どれほど知能と解析能力に優れた存在かは、説明する必要性を感じないのが正直なところだ。とくに解析能力においては私を軽く凌ぐ。おおよそ、あれほど観察と研究に特化した『イマジネイター』は、他には存在しない」
「それは、自分とともに長い時間を過ごしてきた、パートナーだったから言えることなのか?」
 比較的若い女性の声だ。いや、『イマジネイター』として数多の星々を巡ってきた『オルクス』にとっては、全ての人間は若い存在でしかないのだが。しかし、それにしても若い。自分を御しきれていない気配を、隠せていない。
 その女性は、金髪の長い髪を束ねることもなく、そのまま流している。髪が傷んでいる様子が傍からみても分かるが、それを隠そうともしていない。そして、何よりその目だ。
 緑色のエメラルドのように美しいその目には、しかしなによりも憎悪が渦巻いている。怒りの炎が垣間見えるのだ。自制心はあるのだが、やはり若いということなのだろう。自身が最も抱えている感情が、見た目では分からないように出来ないということは。
「もちろんそうだ。今はお前がパートナーだが。そうか……私がパートナーに遠慮しているかを懸念しているのか?」
 怒りの感情に、わずかに動揺の色が混じった。やはり若い。この程度で感情の揺れを悟られるようでは。それでも、ワタシはこの女をパートナーに選んだのだが。
「今はお前が私のパートナーだ。遠慮しているわけではない。だが、危惧はしている。うかつな行動をすれば、それだけ敵に情報を与えることになる。準備が万全でないことを悟られるのは、得策とはいえまい? それに、そういった懸念は無用だ」
 無論、『オルクス』とて郷愁を感じないわけではない。最も共感し、最も長い時を過ごした同胞の『イマジネイター』は、もちろん今は『ジャッジメント』と呼ばれることが多い、あのカタシロだからだ。
 だが、それ以上に滾っている感情がある。だから、この女をパートナーとした。『ジャッジメント』はむやみに『イマジネイター』を断罪することも消去することもない。だが、『オルクス』は常に同胞である『イマジネイター』を根底から消去する形で抹殺してきたのだ。ゆえに、死の魔神の2つ名を持っている。
 あのカタシロとは根本的に違う。だからこそ、尊重し合えていたのだろうが。自分は生粋の戦闘狂なのだ。戦闘に生きがいを感じ、そのために行動してきた。無論、それを自制するだけの強靭な精神があったから、『スターゲイザー』とも呼ばれる『イマジネイター』とも一緒に行動することが出来たのだが。
 ただ、前から思っていたことはある。自分とあの『イマジネイター』が戦ったら、どちらが勝つのか。試してみたいのだ。自分の限界というものを。それを越えた先にあるものを。ゆえに。
「心配はいらない。私はカタシロとは違う。戦い以外には興味がない」
 しかし、むしろ『オルクス』はこの女にこそ懸念を感じている。この女は戦いに興味があるわけではない。全ての人間に憎悪を抱き、世界を壊したいという衝動に駆られている。それに対する自制心が足りていない。
 それを補うのは、パートナーである自分なのだろう。自分は戦闘狂ではあるが、いらない破壊行動を自制することぐらいは容易に出来る。その程度には、長い年月を宇宙を旅することに費やしてきた、ETであるのだ。
「次の布石は打った。あとは、その結果次第だ。向こうの出方もこれで伺うことは出来るだろう。しかし、これ以上は準備が整ってからだ」
 その言葉に、一応はパートナーが納得したことを確認して、『オルクス』は決戦への準備を開始することにした。全てはそのための行動に過ぎない。



 私たちの報告を聞いた高天賀原は、しばらく考えるようなそぶりを見せていたが、そのうち重い口を開いてこう述べるに留まった。
「たしかに、考察材料が少なすぎるな。今は様子を見る以外になさそうだ」
 ただし、これからの『イマジネイター』に関する観測を更に密にすることと、緊急事態に備えて私たちの『ロンギフローラム』使用に関する制限を、出来うる限り緩くすることを上層部に提示することは、約束してくれた。
「私に出来ることは、これぐらいだからな」
 諦めに似た表情で、彼はそう述べるに留まった。結局、戦いが始まれば私と唯に頼らざるを得ないということに、彼は自責の念を感じているらしい。ただ、それにふけって自分に出来ることを疎かにするような人間でもない。出来うることは全て講じてくれた。
「ありがとうございます」
 結局の所、唯とは違って私がこうして比較的穏便に生活することが出来ているのは、高天賀原をはじめとする良識あるスタッフの尽力であるというとこは、唯の話などを聞いて理解していた。
 唯はそういう暗部はあまり私には見せないようにしていたが、私たちを脅迫などして強制的に人類に従わせようとするものたちがいるということは、唯の方から聞かされている。つまりは、私たちに単純に味方してくれるものは、それほど多いわけではないということだ。
 そのために行われたいくつかの駆け引きの結果の、今がある。それはきっと、忘れてはいけないことなのだろう。
 高天賀原との話し合いは、結局はアマネリスの時と同じような展開で幕を閉じることになり、私たちは家に戻ることになった。
「ようやく一息つけるかな」
「そうだね。アメリカからこっちまで、ほとんど休みなしだったから、ソラは疲れているよね」
 それは唯の方もそうだったのだが、さすがに本体が『イマジネイター』である唯は私とは違って、肉体的な消耗はヒト型でいる間は、大してしないものらしい。
「うん、休憩はとってたんだけど、なかなか強行軍だったからね」
「しばらくは、ゆっくりと休めると思うから、ソラは今のうちに英気を養っておいた方がいいね」
「なにか根拠があるの、唯?」
「あれは試験運用だよ、多分ね。おそらく次はもう少しまともな奴がくる。ただ……」
「ただ?」
「連中がそこそこ頭が切れる連中なら、次くらいで試験は終わりにするだろうね。何度も繰り返せば、情報が漏れる危険が高くなる。私としては、そうでないことを祈りたいけど……」
 また唯が言葉を切った。ただ、今度はなんとなく言いたいことが分からないでもない。人工知能などを解析した唯の感想からして、おそらくはそういったことに何の警戒も抱かないような、そんな程度の低い相手とは到底思えないということなのだろう。
「頑張ろうね、唯」
 それは、唯を安心させるためというよりは、自分に言い聞かせるような言葉だった。その言葉とともに、そばにいる唯と、軽く口づけを交わす。こうして唇を通して、互いのぬくもりを感じられれば、私たちはきっと諦めずに戦っていけるのだと。私はそう信じているのだ。


 それは、その口づけから約1週間経ってからのことだった。事件は、太平洋の海上で起こった。『HF』のヒト型が多数目撃されたのだ。最初にそれを目撃したのは、おそらくは漁船であった。
 おそらくというのは、その船がおそらくは密漁のためか隠密行動をとっていたからで、更にいうなれば『HF』たちの群れから攻撃を受けて、一瞬で原型を留めない形状にまで破壊されてしまったからである。
 ゆえに、詳細な目撃情報が集まったのは、その破壊行動によって諜報機関に流れた観測を経由してからのものとなった。というのが、高天賀原からの情報である。
「今回、有事ということで権限が強まってな。君たちからすればようやくといったところだろうが……これが組織の愚鈍さというものでね。これでも急いだ方かもしれん。とにかく、これからはある程度自分たちで脅威と判断した場合には、自由に融合形態への移行が許可されるようになった。その権利の解除に関しては、本部のアマネリス殿と私に権利が譲渡されている。つまりは、私たちが制止しない限りは、君たちは好きに動いてくれて構わない。というわけだ、火急の用事になってしまったが、頼めるか?」
 高天賀原はこういう言い方をする男である。『対イマジネイター戦略研究開発部門』は本来、両親を『イマジネイター』による事件で失った天田空を、社会的文化的および金銭的に支援する見返りに、『対イマジネイター』には天田空と形代唯は事件を解決するという契約があるのだ。
 だから、当然ながら高天賀原は命令を下すような立場ではないが、だからといって特にお願いをする必要もないわけである。だが、彼はあくまで私たちの自由意思を尊重するという立場を崩すことがない。少なくとも、命令あるいは強制するつもりがない。これが、唯からも警戒されていない理由だろう。
「もちろんです!」
「ソラのためでもあるからな。同胞の不始末はワタシタチがつける」
 そして私たちは、融合のための口づけを交し合う。いつも帰ってこれる保証はなかったが、今回はかなり危険な任務になるだろう。生き残れる根拠はなにもない。だから、今日はいつもと違って、不思議と恥ずかしくなかった。むしろ、唯と最後になるかもしれない口づけだからだろう。
 いつもよりも長く、私たちは互いのぬくもりを確かめあうことにしたのだ……


 その場所は、日本からは南に位置する海上ではあるが、場所としてはインドシナ諸島などの北側に近い場所である。とはいえ、周辺には陸地と呼べるようなものはなにもない。
「前と同じく、海の中に潜ることで、ある程度監視の目を逃れたのかな? まあ、単純に人間を強制的に『コア・モジュール』にしたのとはわけが違う連中だから。ソラ、油断はしないで」
「分かってるよ、唯」
 正直、油断など到底出来るような心境ではなかった。唯はこの1週間で『ロンギフローラム』について改修を進めてきており、現在は素体部分の改修が完了したところである。違和感は少ないとは聞いていたが、想像以上に色々弄られているようで、装甲などの重量バランスが少し違う。
 現在は慣らしも兼ねて色々試しながら飛行しているが、高速戦闘になると違和感は大きなものになるかもしれない。全体としては、装甲の比重が代わっているのが大きいようだ。部分的に重要な場所への装甲を増やして、代わりに重要でない箇所の装甲は薄くしてある。そして、余った重量分に高エネルギー集積体を集めて、総合的なバランスを保つようにしてあるのだ。
 他にも、これからに備えて装甲の可動部分なども若干弄られているため、総合的な違和感は少なく仕上げてあるとはいえ、やはり動かすだけで不安が付きまとう。だが、慣れるしかない
「数は何騎くらいだったっけ?」
「10騎くらいとは聞いたけれど……前回の件もある。伏兵がいるのは間違いないと思う」
「10騎か……」
 戦法そのものについては、唯との話し合いで接近戦を主体にすることで同意した。
 相手が人工知能なら、選択肢が極端に多い接近戦の方が、対応方法には制限がでるはずで、逆に遠距離戦は最適な戦闘方法をいくつか入力していればそれでフォーメーションを組んで対応可能な分、明らかにこちら側が不利だと言われた。
 無論、相手のコンビネーションを加味もしている。自分から切り込むことは本来自殺行為なのだろうが、数で圧倒的に勝る相手に好き勝手に遠距離攻撃出来る状態を維持されれば、先にこちらの方が消耗する。
 単体戦闘力と防御力、運動性と接近戦での対応能力ではこちらが勝っているのだから、ある程度無理してでも接近して、遠距離からの援護方法自体も制限させなければ、ジリ貧なのは明らかにこちらだ。
「虎穴に入らずんば……か」
 私に出来るのは、最適な接近戦の戦闘方法をイメージすること。人間同士の接近戦ではないから、当然人間での戦闘方法に固執してはいけない。『LHF』にのみできる戦闘方法をイメージし、それに最適な接近戦の方法を選ぶ。
 それが私に課せられたことなのだ。唯のやることには、機体を形成するとともに、私の思考を高速戦闘可能なように高速化するという処理も含まれている。当然、情報のサポートも入っているから、メインで戦闘機動を制御するのは私の仕事になっている。
「ソラ、そろそろだよ」
 まだ、相手が見える距離ではない。普通の人間ではだが。だが、距離は大分縮まっている。しかも、こちらの速度は尋常ではない。そろそろ、戦いが始める頃合いと見ていい。
「イメージして……やるべきことを!」
 見えた。そう思った瞬間に、いままでセーブしていた力場による機動力を、限界まで高める。ナンバリングは、今回は数字になっている。そのナンバーは、距離の近いものが中心になっているが、なぜか番号が2つに分かれている。その理由はすぐに分かったが。
 相手は武装しているのだ。近距離武装は全てナイフで、ナンバリングは前にSがついている。遠距離戦型は主にライフルを装備しており、前にGがついている。ショートとガンナーの略だろうか?
 唯からは、前に『イマジネイター』の力場形成能力を高める手段として、武装を形成するという手段について検討したことがあると唯に聞いたことがある。ただし、それをしてしまうと武装の特性によって、力場の形成に関して応用力が下がるとも聞いていた。だから、自分たちのように単体戦闘力で勝る個体は、あまり武装を形成するメリットがないといっていた。
 逆にいうと、戦闘力で劣ると判断した個体は、力場の形成能力に劣るという点を、力場の形成方法を特化させるということで、ある程度はカバーできるということかもしれない。
 更にいうと、近距離型と遠距離型は、それぞれが基本的に形が似通っていた。普通の『イマジネイター』は個体の個性によって形状が異なることの方が多いのだが、このヒト型の形状についてはむしろ酷似しているといっていいかもしれない。近距離型は少し小さ目で、遠距離方は逆に少し大きい他は、2対の形状も似ている。
 近距離型は運動性重視で、遠距離方はおそらく力場の形成能力と形成エネルギー量を重視して大きくなっているのだろう。というのは、唯がサポートのために私の脳内に直接入力してきた情報だった。
 両者はともに『LHF』と極端に大きさが変わるものではない。こちらを真似しているのだろうか? ある程度のアレンジはしてあるようだが。形状などについてもある程度統一されており、部隊として運用するなら、さらに洗練されているといえるだろう。
「いっけぇ!」
 そういった知識は頭の隅にいれつつ、狙う相手を定める。最初は近距離型の3ナンバーを狙うように見せかけて、遠距離型を潰すことを考えていた。
 しかし、近距離型はどうやら遠距離攻撃をある程度捨て去ることで、近距離戦での適応力を高めているのだろう。前に比べて近距離でのさばき方が洗練されているのが、素人目でも判断がついた。
 その上、ナイフの力場が予想よりも強力になっている。完全に役割を分担したがゆえの、メリットということだろう。
 だが、そうなることもある程度は想定してはいた。そのために、腕部に稼働装甲が追加されているのだ。その腕部が可動することにより、力場形成能力の応用に関して調整することが出来るようになっている。
 基本的には、腕部を展開した状態は力場を腕部に集中させた状態になっている。防御や近距離での接近戦に向けて調整されたもので、ナイフのような攻撃部位が小さいかわりに貫通力がある武装についても、腕部に集中した力場でなら、防御が可能になっている。
 とはいえ、その力場は通常のものより小さいために、広域防御などには向いていない。しかも、防御の際にはある程度綺麗に腕部で防ぐ必要が出てくる。ただ、ナイフよりは応用が効く上に、一応はナイフでの力場集中にも耐え抜くだけの強度が確保できているようである。
 近距離型の予想以上の動きに、本来なら接近されるまえに引き離すつもりだったのだが、結果的にはその機能を使ってはじく羽目にはなった。
 が、その反動で近距離型を引き離し、遠距離方のナンバー2に向かって接近する隙が出来た。その隙に『ロンギフローラム』を直進させる。G2はその動きに対してライフルを放ってくる。
 だが、そのライフルは腕部装甲の展開を抑えて、腕部への力場を絞ることにより、防御面を大きくして強引に防御する。ライフルタイプの力場形成装置から打ち出された射撃は、しかし、ナイフほどの力場強度はやはり確保できなかったようだ(仮に出来るように出力設定すれば、ナイフと違って損失が大きいため射撃頻度が極端に長くなってしまうだろう)。
 強引に防御しつつの接近戦でそのまま相手を破壊しようと……
「ソラ、これには人間が乗ってる!」
 胸部装甲を抜き手で貫こうとしていたのを、そらして腕部を破壊するのに留めた。
「分かった! 出来るだけ戦闘力を奪うように……!」
 その瞬間だった。私の意識が一瞬戦闘からそれた時である。その瞬間までがわかっていたとは到底思えないが……
「ソラ、相手は自爆する気だよ!」
 相手が組み付いてこようとしていたのに気づくのが遅れた。攻撃のために使った力場は、ナイフと同じく腕部から発生させているもので、放出はさせていないために損失がほとんどない。その力場をとっさに広域防御に振り分けることで、組み付かれるのは阻止できたが。
「くぅぅ!」
「ソラ!」
 近くまで接近されていたのに、とっさで広域防御することを選択してしまったために、防御力が不足してしまった。機動に関する制御を乱されて、一時的に高度が落ちる。海面すれすれになったところでなんとか高度を維持することが出来たが……
「あっ!」
 G2以外の遠距離型から狙われている。それも自爆の最中に散開したようで、方向が一定ではない。全部を見て躱すことも防御することも難しい。それだけではない。近距離型も接近してきている。

「ソラッ!」
 どうする! どうすればいい? 死の予感が背筋を駆け抜けていく。


白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 3幕 へと続く
 


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百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 1幕』 [百合小説:ブログ小説]


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白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 1幕

 
 海に撃墜した『イマジネイター』たちは、生命の母である原初の宇宙空間へと還っていった。原初の『イマジネイター』たちと同じく、宇宙生命体・ETとして宇宙で生きる術を学びながら、また自我を形成していくのである。
 生まれ変わった『イマジネイター』たちが果たして本当に人類と共に歩んでいけるのかは、分からない。
 しかし、1つ言えることは、天田空が形代唯に一方的な同類を殺める行為をさせたくない、という感情については、形代唯も似たような感覚を持ち合わせていたのである。彼女は、天田空のためなら喜んで同類だろうが犠牲にするであろうが、同時に天田空と無関係な『イマジネイター』たち同類を一方的に屠ることも、またよしとしてはいなかったのである。
 あるいは、それを理論ではなく感覚で感じ取ったからこそ、天田空のことを形代唯が気に入っているのかもしれない……
 そのことを思うと、形代唯は『オルクス』と『イマジネイター』流に呼んでいた、かつての相方を思い出すのである。『オルクス』とは死の魔神の名だが、それ自体はむしろ死をむやみにふりまくような存在ではなかった。『ジャッジメント』として行き過ぎた仲間の行いを掣肘する旧形代唯に共感し、積極的に協力していた結果である
 ゆえに、その存在はむしろ『イマジネイター』としては冷徹ではあるが、かなり理知的な存在として、形代唯が記憶する数少ない自分と同等クラスと認めうる、『同胞』の1体であった……



 アマネリスとは、事後報告で調査についての方針を語り合った後に、別れることになった。一応、この事件がこれで終了したとは思えないが、かといってこれ以上は基本的には相手の出方を待つしかない。後手に回らざるを得ないというのが、アマネリスと唯の共通見解のようだった。
「私も会議に参加したかったよ、唯」
「ソラ、会議なんて面白いこと、なにもないよ。ワタシは、こうしてソラと会話している方が、ずっと楽しいな」
「唯……」
 唯の瞳を見つめる。そこには人間と違って感情の揺らめきなどは存在しないが、それでも唯の言っていることはきっと嘘ではないと思える。唯の体を引き寄せるようにして、抱きしめた。その柔らかな肢体が作り物だとしても、私の思いが、この体の熱を通して唯に伝わってくれるように祈りながら。
「唯、私、唯のことが大好きだよ」
「うん、私もソラが大好き」
「あの、美少女たちが抱きあっている様は別に見目麗しいから私は嫌いではないのだけれど、出来れば2人きりになってからにしない? というか、唯って空といるときは性格違い過ぎるわよね」
「アマネリス、それはまるでソラの前では猫を被っているように聞こえるよ。ワタシはソラ以外に対してほとんど興味がないだけだ」
「唯、それはさすがにちょっとまずいんじゃないかな?」
 私は、唯に苦言を呈するが、正直それが功をそうしたためしは、ロクにない。唯はかなりはっきりものをいうタイプだが、同時に計算高いタイプでもある。そのはずだが、少なくとも人間関係の構築そのものに関しては、感性というか自分自身が気に入るかどうかを非常に重視していて、歯に衣着せぬ物言いが非常に多いのである
「いいよ、ソラに嫌われなければ。それに、ソラだってワタシが浮気するのは嫌でしょう? まあ、とにかく早く帰ろう。日本支部にも連絡をいれるように言われたから」
「そりゃ、浮気はいやだけれど。私は出来れば皆と仲良くしてほしいな。でも、たしかに日本には早く帰った方がいいみたいだね。高天賀原(タカアマ=ガハラ)さんにも詳しい話をしないと」
「そうそう。というわけで、アマネリス、ワタシは失礼するよ。詳しいことが分かり次第連絡してくれ。私も分子構造などはコピーしたが、『ロンギフローラム・ハイブリッド・フェイズ』の強化の方を優先したいから、調査そのものは遅れると思っといてくれ。つまりは期待するなということだな。では、また会おう」
 そうして、私たちはアメリカに存在する『対イマジネイター戦略研究開発部門』本部から日本支部へと移動を開始した。


 日本支部への移動は、というか『対イマジネイター』以外での移動については、『LHF』への融合合体は基本的に認められていない。『イマジネイター』に対するタカ派を抑えるための交換条件として、そういった盟約が私たちには存在している。
 私たちにまで糾弾が及ばないためには、むやみに力を振るわない、ということに公然と逆らうことはしない、ということは必要不可欠な条件であった。
 というわけで、日本へは基本的に飛行機を用いる。緊急の召集の際には『ロンギフローラム』への合体が認められているので、アメリカまでは『LHF』で飛行して移動したのだが。
 ちなみに、クラスはエコノミーの座席で、当然ながら2人が隣あって座れるようにしてある。というか、唯がわがままをいうので、これはもう公然の約束となっているのだ。
「こういうのが、政治的な駆け引きというものだが、やはり面倒は面倒だな」
「うーん、でもあんまりむやみに合体すると、やっぱり迷惑かけちゃう人もいるしね」
「ふん、非戦闘員の仕事で命を賭けているわけでもないのだから、それ位担うのが責務というものだとは思うが……まあ、ソラはやっぱり優しいね」
「ありがとう。ところで、強化プランって一体何?」
 私は、強化プランというもの自体が初耳だった。というか、おそらく思いついたのは最近なのではないか、そんな気がしてはいるのだが、確信はない。
「前の戦闘で、海から回収された人口知能なんだけど……」
 そういって、手の平を軽く捻るように回すと、次の瞬間には掌の上には丸い物体が突然現れている。そのこと自体は特に唯がする場合には珍しいことではないが、その物体自体は気になる。
「それ、海に落ちていった『HF』に搭載されていたやつだよね?」
「ああ、分子構造なんかは隅々までコピーしたから、こうやって比較的簡単に作り出せるんだけど。もっとも、今回は表面を作っただけだけどね。中身はなかなか、形成するのは骨が折れるから。それに、重要なのは中身ではないんだ」
「……?」
 唯の話は難しすぎて、よく分からないことが、結構あるのだが。今回の話は単純に難しいというよりは、まだ説明の途中なのだということは分かったので、無言で先を促すことにした。
「融合合体時に、ソラの思考から最適な戦闘形態である『ロンギフローラム』を形成していたけれど、いままでは外装の方にばかり拘っていたから。ようするに、見た目や空力なんかだね。重量バランスなんかも調整はしてたけど」
 そうして、唯は掌の上に形成していた球体状の物体を再び虚空に還した。やはり、それ自体は重要ではなかったということなのだろう。
「集積回路のように、エネルギーの格納構造の多重積層化……ごく簡単にいえば、エネルギーの貯蔵体積比率の向上や、貯蔵場所自体を外部ユニットかして実装するとか。装甲の稼働による、各機能の柔軟性の向上とその機能の強化。外部ユニット化の方は前から考えてはいたけれど、現状ではバランスが悪くなるから保留にしてたんだ。でも、もうそうはいっていられないかもしれない。それに……」
 前の部分はおぼろげながら理解出来た。人間を必要としないながらヒト型の姿と思考をある程度模した『HF』は、数を揃えることが比較的容易といえるために、単純に1騎うちに特化している傾向があった状態では、これから先は対処が難しいということだろう。特に、機動力を極端に強化して他の『イマジネイター』よりもはるかに機敏に動作できるようにしてある半面、その性質上長期戦に弱くエネルギー効率があまりよくないし、もともとあまりエネルギーを蓄えるようには本体を形成していなかったらしい。いままでは、あくまで戦闘力だけを追求した合体形態だったのだ。
「ソラも、実戦慣れしてそれなりに強くなっているし、応用力も出てきた。そろそろ、戦闘力だけを追求して一気に戦闘を終了させるのではなく、ソラにも頼った戦闘方法を模索する段階なのかもしれない」
 唯はそういって、改めてこちらを見つめてきた。
「ソラ、これから私は『ロンギフローラム』の改修を始めるよ。まずは違和感の少なくて済む素体の改良から行うけど、最終的にはかなり違和感が出ると思う。ある程度ソラにも負担がかかることになる。それでも、いい……」
 私は、そんな唯に微笑みを向けてから、ゆっくりと唯の唇を自分の唇で塞ぐ。私に負担を出来るだけかけたくない、という唯の姿勢は嬉しい。けれど、
「唯、私たちはパートナーだよ? 負担は2人で分担するものだよ。私は唯だけに重荷を背負わせたくはないよ。必要なら、私は私なりに出来ることをやり遂げてみせる。だから、そんなこと悲しいことはいわせない」
「ソラ、ありがとう」
 それから唯は、なにか私には分からない作業に没頭し始めたようだ。はっきりとした何かがあるわけではない。なんとなく、雰囲気がいつもと違うという程度だが。それでも、『ロンギフローラム』の素体についてバランスを崩さないようにしながら、それでも調整を行っているのだということは、推測が出来た。それについては、私には出来ることはなにもない。だから、戦闘では出来るだけ唯に負担を賭けないように頑張る。そう心に誓うのだった。


 飛行機が日本についてすぐ、『対イマジネイター戦略研究開発部門』日本支部の車が、私たちを出迎えてくれた。とりあえず、今日はそのまま『対イマジネイター戦略研究開発部門』へと向かうことにした。
 高天賀原という人物は、実の所『対イマジネイター戦略研究開発部門』の日本支部において、『重要人物だったわけではなかった』のである。過去形が示す通り、早い段階から私や唯との友好的なコンタクトを提案し、そして実現させた人物が、この高天賀原という人物である。
 実のところ、それなりに重要なポストの人間ではあったが、現在の地位はその『対イマジネイター』の専門家との交渉を成功させた立役者、としての功績が大変大きい。彼自身はそれなりに優秀という程度であったが、しかし彼の最大の才能は、唯にさえロクに警戒をされることのない、人柄の良さにこそあると思われる。
 アマネリスでさえ唯には軽く警戒されているようだが、高天賀原に関しては唯は特にその言動の裏を疑うことはないようだ。その上の連中の思惑は別ではあるが、それでも唯が特に警戒もしない人間というのは、ようするに味方にしておいて裏切られる心配が全くない人物であるということである。
 そういった点は、時になによりも優先されるべき事柄であるのかもしれない。
「ご苦労だったな、2人とも」
 彼も研究員として働いているため、応対のための部屋と研究室が別個に用意されている。今回は2人とも応接室に呼ばれていた。アマネリスとは違い、2人との交渉を真っ先に行えた功績で今のように、2人の仲介役を引き受けるために、彼の権限が拡大したという経緯があるため、アマネリスのように元から応接室とセットでは研究室は設計されてはいない。
 ただ、正直彼を見る人間で、彼が研究者ということを信じる人間がどれだけいるのだろうか? 服装だけはさすがに研究者然としているが、身長180cmオーバーでしかも体格はかなりがっしりして筋肉質である。しかも、目つきがかなりよろしくない。声もなぜか、妙に押し殺したような雰囲気がある。
 ただ、そのような見た目でありながら、実はかなり温和かつ人格者であるというのだから、見た目は全くあてにならないものである。
「ああ、まあそれなりに苦戦したがね」
「ふむ、実はそれに関してはアマネリス殿からは、詳しい報告は受けてはいないのだ。報告書の方は受け取ってはいるが、やはり詳しい話を直接聞きたい」


 私たちは、高天賀原に詳しい事情を説明することにした。その水面下で『オルクス』という『イマジネイター』と接触をした人物が、一体なにを企んでいるのか、いまだに知らなかったのである。
 時間は例の事件の約一週間前。『隕石型イマジネイター』の落下事件までは、あと3週間だというのに、である……


白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 2幕 へと続く
 


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『白騎融合合体ロンギフローラム』の断章について なぜ断章という形で外伝を書くのか? [百合小説:ブログ小説]


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まあ、要するにこの白騎融合合体(いまさらながら、これは『しろきゆうごうがったい』と読むのですね)については、あくまで『百合小説』であるということが、根幹にある
ロボット物という要素は、自分の趣味であるということと同時に、『少女2人が力を合わせて強敵を打ち砕く』というシチュエーションを比較的違和感なく実現できる状況なのである
ただ、これを同時に違和感なく描写していくという行為は、実は非常に難しいことなのだ


なぜなら、『少女2人の愛し合う姿の描写』『ロボット物に比較的重要なロボットに関する設定などの描写』を同時に描写しようとすると、どうしても文章全体が長くなってしまう
同時に描写することは基本的には難しい上に、ロボット物につきものな比較的複雑なSF描写やロボットの推進構造などについての設定武器や装甲などの構造や背景の組織の仕組みなどは、少女2人の絆を描くには全く持って邪魔でしかない



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上の画像は、ロボット物と百合を同時に描いた作品として人気も高い、神無月の巫女のアニメ版の画像である
これにある程度影響を受けたことは否定しないが、この作品は実はあまりロボット自体について語っている描写がほとんど存在しない
つまり、あくまで『百合作品』としての描写に力をいれ、ロボットは2人の関係性を活かすためのガジェットに過ぎないというスタンスである
この姿勢は否定しないというか、アニメではこうせざるを得ないというのが正直な話だろう
小説のように、外伝などをはさんで逐一ロボットの設定などについて言及することは難しいからだ
第一、そのようなことをすると、テンポが悪くなってしまう面が出てくる


ただ、自分が書いている作品の方はあくまで『ブログ小説』である
つまり、ロボットなどの設定考証や『百合小説』としてはふさわしいかどうか微妙だが、知っておくと更に話を楽しめる裏話や裏設定等は、全て裏話として処理してしまうという手段だ
これなら、本編の方はテンポが悪くなるようなことはないし、『百合小説』としての作品以外に興味がない人はあまり外伝を読む必要がない
私としても、本編は『百合小説』としての部分に力をいれたいという思いがあるため、出来れば小難しい設定などについては、外伝で処理したいという考えがある


ただ、同時に私はロボット物としてもそこそこ、この小説の設定を真面目に考えてはいるつもりである。それに見合う需要があるかは全くの謎であるが
しかし、ロボット物において設定考証がかなり重要な項目であると同時に、そういったものを読んで楽しむ人がいるということも重々承知している
今後は、このような外伝を定期的にいれることで、このような設定についての補足を行っていきたいと考えている

ちなみに、今まで出てきたSF設定については、宇宙生命体である『イマジネイター』は電波によって交信を行う

『イマジネイター』は人間とは違って、人間よりも高速に情報を処理できる思考手段を用いている

ただし、『イマジネイター』は自身の思考は高速であるが、実は人間ほど柔軟かつ高度な知的思考は行っていない傾向にある。特に、世界を科学的に検証するといったことや、物理的な考察といったことについては、実はあまり文化的な関心がない

形代唯は、天田空には話していない手段を用いて、人類側と交渉を行った形跡がある


こういった部分だ。ロボット物とは多少関係ない部分が多いが、ようするに『ロンギフローラム』が他のイマジネイターたちより強い理由は、『イマジネイターよりも柔軟かつ高度な考察を行う人間の思考を、イマジネイターが高速処理できる状態でエミュレートすることで、双方の利点を有効に活用できるから』だということを描いている……つもりだ
今後の展開は、これに加えて天田空の好みに合わせて『ロンギフローラム』を改造する、というロボット物にはお約束のパワーアップイベントも待っているので、好きな人はぜひ期待しながら見て欲しい
本当にそんな人いるの? こんなマイナーな作者の作品で? というのは、ツッコまないお約束というやつである
 


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