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百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 3幕』 [百合小説:ブログ小説]


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白騎融合合体ロンギフローラム 2章 調停者と死の魔神たる統率者 3幕

 

 そのとき『オルクス』は、『LHF』と特別に呼称される存在が倒される寸前まで押されているという事実を、無感動に受け入れていた。しかし、だからといって、これで終わりなどとは考えていない。
 それほど付き合いが短い相手ではない。カードをどこまで切ってくるのか? どこまでデータ収集ができるのか? 『オルクス』にとって気になっているのは、あくまでそのことである。
 この程度で終わるわけはあるまい。これは所詮始まりの前の準備に過ぎないのだ。それを向こうも承知しているから、加減をしている。一喜一憂はできない。
 これは所詮駆け引きなのだ。



 天田空はそのとき確かに死の予感を感じ取っていたが、一番感じていた感情はその死への恐怖などではなく、人間を載せた『イマジネイター』を自爆させてしまった、つまりは殺してしまったという事実である。
 そして、この人間と『イマジネイター』の死を駆け引きの道具としている存在がいる。その事実への怒りであった。だから、天田空は吠えるのである。その思惑に今は踊らされるだけの自分たちを。自分たちの同胞を見捨てざるを得ない無力な自分を、叱咤するために。そうでなければ、きっと心が折れてしまう。

「うあぁぁぁぁ!」
 その叱咤とともに、『ロンギフローラム』は海中へと落ちていった。いや、わざと海中に向けて高速移動を開始したのだ。その海中への侵入の際の衝撃は相当なものであったが、それを全く意に介することもなく、空は『LHF』を高速で海中の深くへ潜らせていく。
 それはとっさの思いつきに過ぎなかったが、ある種の確信もあった。おそらくは海水の方が空気よりも抵抗が強いことと、狙っている最中に海水に入った場合は、おそらくはセンサーなどの切り替え作業で狙いが甘くなること、更にはフォーメーションを組んで囲んでいたとはいえ、海中から狙っていた機体はおそらく存在しないだろうこと。
 そういったことを加味すれば、海中に入ることで狙い自体が甘くなる上に、特に射撃武装による力場の攻撃力が減衰し、しかも攻撃の方向自体をある程度限定することが可能となるのである。
 最も、向こうよりは速く動けるとはいえ、水中はこちらにとっても移動しやすい場所ではない。このまま逃げ回れば逆に追い詰められかねないということも考慮すると、あまり長い間潜っているわけには行かないだろう。
「ソラ、ここは一旦退却……」
「唯、ごめん、リミッターを解除して」
「ソラ! あれは、慣性制御を含めても、地上に被害が出ないように出力配分すれば、中にいるソラにまで負担がかかるといったはずだよね?!」
「そうだね。でも、このままでも『HF』の自爆は止められないんでしょ? だったら、その分を戦闘力に回せば……」
「それは……分かっているのソラ! 相手が自爆しているからって、中には人間がいるんだ。ソラはそれを知って悲しんでいるでしょう! だったら……」
 唯がそこで、言葉を不意に区切った。不自然な切り方だったから、それで言ってはいけないことを口にしたと思っているのだろう。唯の言葉は、私の考えがほぼ正しいということを、肯定しているも同然なのだ。『イマジネイター』や人間を分離して再構成させるのには、実はかなりの余力と若干の間がいる。
 今回は、中の『コア・モジューラー』である人間か、『イマジネイター』自身が特攻による自爆を敢行しようとしているようだから、再構成を行えるように手加減して相手の戦闘力を奪うのは、ほぼ不可能だ。
 だから、ロンギフローラムが常に相手を再構成するために温存しておく余力を、戦闘力に回していけば、いまの状況はもう少しマシなものになるだろう。ただし、『人間とイマジネイター』両者を救える僅かな可能性さえ、おそらくはなくなってしまう。
 それに、リミッター解除まで加えた戦闘状態は、最初の戦いに慣れていない頃と、緊急事態への対処の瞬間のみで、長時間使うような場面で使用したことはない。しかも、正直今でも長時間使用していられる自身はない。
「でも唯、私は嫌なんだよ……無力な自分も、出来るかもしれないことを、出来ないかもしれないって諦めることも! 『イマジネイター』も『コア・モジューラー』は救えなかったとしても、今ここで倒しておけば救えたかもしれない人が出るかもしれないんだ! だから! だから! お願い、唯!」
「分かった……ただし、リミッター解除はしない。少し早いけど、拡張機能を開放する。ただ、微調整が終わってないから、それでも危険なことには変わりがない。でも、再構成が出来るかもしれない余地は残るよ」
 私は、危険だとわかっていたけれど、外をみるよりも中にいる唯を見る方に意識を集中させた。そうして、唯の頬を私の両手で慈しむように、包み込んでいく。
「ありがとう。私のわがままに付き合ってくれて」
 唯は理由もなく、出し惜しみをするようなタイプではないから、きっとそれなりに理由があってのことなのだろう。だから、これは私のわがままのせいで唯の考えを台無しにしてしまった、せめてものお詫びだった。
「いいよ。ソラにただの人殺しは、させたくない」
 きっと、それも理由だった。私がただの人殺ししか出来ない状態になってでも、今ここで被害を食い止めておきたいということを、唯は読み取った。その上で、私に『両者』を救う余地が残るようにしてくれたのだ。それが、自分の計画に支障をきたすことを承知した上であることは、想像に難くない。
「唯…行こう!」
 攻撃は、激しさを増しているが、今はまだ機体の前面を覆う程度に縮小した状態で防御ができている。こちらの出方が罠かもいれないと警戒して、すぐには別のパターンに移るつもりがなかったのだろう。だが、私達がカードを切ることにした瞬間に、向こうも攻撃のパターンを変えてきた。S2、『近距離型2番手』がナイフを手に海水に侵入してきたのである。
 様子見もあるだろうが、近距離型を先行させることで最悪近距離型を1騎潰しても、それでこちらの出方を観察しつつ、射撃用の観測を行うつもりなのだ。だが、それはさせない。
「エクステンショナル・VF、装着!」
 前回とは違い稼働できる装甲がスライドしていき、『VF(ヴァリアブル・フレーム)』を装着させるための機構が露出する。普段は防御力の低下を抑制するために露出しないようにしているが、そこにある拡張機能を装備するための機構、ハードポイントを露出させる。
 そこに装着されるパーツは、唯がこれまでの間に開発を進めて来たものであり、機体の総合的な性能バランスはともかく、重量バランスの変化による操作性のズレを修正できるかは、私の手腕が問われることになる。唯がこれを出すことを渋っていたのは、未完成とはいえ性能を晒すことの危険性を考慮してのことだろうし、操作性のズレを実戦で修正することが私に負担をかけることをおそれていたのだと思う。
「VFは機構を変化させる事が出来るように設計してあるけれど、これはまだ完成していないから、実質的にこの対多数用の重フレームしか使えない。ごめんね、ソラ」
「大丈夫、これならきっと頑張れる! 戦える! 救ってみせる!」
 起こった変化はそれだけではない。現在は重フレームのみだが、本来の多戦術対応フレームを装備するためには、素体を多少いじる必要が出てきたため、実は素体の操作性を出来るだけ保って装備するためには、素体そのものを大型化する必要が生じたのだ。
 それによって慣性制御の難しさそのものは向上するし、運動性も下手をすれば低下するが、それ以上に大型化による力場形成能力の向上と力場の瞬間出力の向上を私が制御しきることが出来さえすれば、これはいままで以上の運動性を確保しつつ、様々な状況に対応が可能となった。
「あとは、私次第……!」
 その情報と感覚は設計担当の唯から伝わってきたが、確かに前に比べてフレームのみならず機体そのものが大型化しているために、機体全体が全身を覆う鎧をまとったように、かなり大型化している。しかも、操作性の難しさは言われるまでもなく、感覚の違いとして伝わってくる。
 だが、同時に感じる、この獰猛とさえいえるほどの、凶暴的なまでの出力上昇による感覚は、むしろ高揚感さえもたらした。
「どけぇ!」
 海水を割りながら侵入してきたS2が、こちらを補足しつつ、こちらの変化がどういったものかを見定めようとしている。その瞬間を狙った。
 それは『ロンギフローラム・ハイブリッド・ヴァリアブル・フェイズ』とでも呼ぶべき新しき融合形態は、まだ届くはずもない距離で右腕を振るう。その動作で、海が裂けていく! モーゼの十戎とまでは行かないが、一瞬でS2までの海水は吹き飛ばされ、その余波でS2は破壊されこそしなかったが、完全にスキだらけだった。
 そのスキに、力場を利用して跳躍する。大型化しているとはいえ、最大出力で優っている機体が全力で加速を行えば、前進のみなら前以上の速度を確保することさえ出来る。その跳躍で、スキだらけのS2の胸ぐらを左掌で押しやり道を開けさせながら、同時に『イマジネイター』を分解再構築するための力場を発生させる。
 前よりも早い速度で展開が出来るようになったその力場により、『S2のイマジネイター』は一瞬にして原型を維持できなくなり、中にいた人間を開放されて、まともにヒト型として動く機能を消失した。


 統率者として、『オルクス』はその様を見ていた。カタシロの新たな手札を見れたことに満足しつつ、しかしあれが切り札ではないことも瞬間的に理解した。明らかに造形に余裕がある。他の機構へ組み替える余裕をもたせていることは、『オルクス』にはひと目で理解できたのだ。
 ちなみに、『オルクス』は基本的にそのようなことは計画していない。こちらの方が数で優れているというのもそうだが、長時間パートナーを組んでいるから微妙に操作感の違いが生じる、あのような多戦術対応機構を組み込んでも対応が出来るのだ。短時間でそれなりに戦えるように訓練を行う必要がある、『オルクス』が所属している組織には、そのような機構はあってもまともに使いこなせるようになるものは、おそらくはいまい。
 だが、それでも向こうがそういった機構を開発していたということを、事実として確証が得られたことは、大きな収穫といえた。そして、同時にこれ以上を引き出すことは不可能だということも。だから、彼らに命じる。
「同志よ。戦え、思うままに」
 それが、この戦いに『捨て駒』として臨んだ彼らにとっての、最大のはなむけである、と『オルクス』は信じている。


 その瞬間、『LHVF』の内部で小さな爆発が起こったことが確認された。それがなにを意味するのか。私は考えたくはなかったが、唯は無慈悲にもそれを指摘した。
「中に取り込んだ人間が自爆した。だが、大丈夫だ。融合形態への機能には一切支障はない。ただ……」
 中に取り込んだ人間は、そのまま死んだのだろう。同時に後ろの方でも爆発が起きたのが確認できた。こちらも『ロンギフローラム』へダメージを与えられるような爆発ではない。完全に自分たちの口を塞ぐためだけの自爆であることは、もはや明白だった。
「無理なんだね……」
 出来れば、敵であっても救いたかった。ただ、それは無理なのだということは、このことで理解出来た。
「ああ。ならせめて、向こうの望むままに戦ってやろう」
「分かったよ、唯」
 唯にとっても、『イマジネイター』は同胞なのだから、自爆がショックでないわけではないのだ。それでも、唯はなすべきことを見極めている。
 私は、その思いに応えなくてはならない。
「空中に出るよ」

 そこからの戦いは、ほぼ一方的な展開だった。いままでよりも大型化している関係で、鋭角に鋭敏に機動運動を行うことは困難だったが、緩やかに回避運動をとりつつ、スキを見て1息で接近することはむしろ楽になっている。
 力場による防御能力の向上と、現在のフレームが対多数専用で、攻撃力よりも多数からの牽制を防御するための防御力重視型なのも大きかった。遠距離型は容易にこの力場による防御を突破できない状態になっている。
 唯一遠距離からの牽制を防ぐ常時展開型の力場を突破可能な貫通力を持つ、ナイフ装備の近接型とは距離を維持しながら、スキを見て遠距離型へ接近して一気に拳と蹴りで粉砕しながら、包囲網からの離脱を繰り返す。
 こちらの一撃離脱を止められるような装備をした機体は今のところはいなかったため、その作戦で遠距離型を失って援護を受けられなくなった近接型も、すぐに撃破されていった。おおよそ、近接型は遠距離型との連携を前提にしたものだったので、遠距離型の援護がなくなればもはやスキだらけの機体に過ぎない。
 そうして、全て機体を粉砕し終えた私には、もはや高揚感など欠片もなかった。被害こそ食い止められたが、すべての敵が自分の口封じのためだけに自爆していく姿を見れば、もはや空虚な虚脱感以外にはなにも残らない。
「それでも、勝ったんだ……ごめんね、唯。予定にないことをさせちゃって」
「いいよ。わたしこそごめん。ソラはちゃんと私の設計の違和感にも対応してくれたね。正直ここまで適応してくれるとは思ってなかった」
「私たち、お互いを信じてなかったのかな?」
「そうかもしれないね。ソラは私が思った以上に成長してたから」
 だが、これで相手にも手の内をさらけ出してしまった。唯ほどではないが、私にもそれは分かる。きっとこれで終わりではないのだ。次は何があるのだろう? これだけのことをしたのだから、きっと今度はもっと大掛かりなことが待っている。

 今は、その予感以外には、確たるものはなにもないのだ。悪意は今も、確実に胎動を続けている……そのことだけが、分かっていることだった。


白騎融合合体ロンギフローラム 3章 生まれ落ちた悪意の星屑たち 1幕 へと続く
 


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