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百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 始動章 胎動していた悪意』 [百合小説:ブログ小説]


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白騎融合合体ロンギフローラム 始動章 胎動していた悪意

 

 それは、それがまだ始まりの予兆だとは気付いていなかった『例の事件』から、2週間後のことであった。場所は地上の遥か上。人には住むことが難しい、なのに憧れさえ秘めて見上げている、冷たくて暗い星屑の漂うソラ、宇宙での出来事である。


 
 天田=空(アマタ=ソラ)は黒い虚ろな空を見上げていた。止められなかった。という思いが胸を締め付ける。だが、これで終わりというわけではない。これはあくまで始まりに過ぎないと、彼らは語ったのだ。
「エルトリアの目的は! 答えて、オルクス!」
「……」
 その空の問いを、『オルクス』と呼ばれた地球外生命体・ETでもある人型の巨人たちは、特に意に介した様子が見られない。天田空、彼女の代わりに永遠のパートナーを自称し、空と融合合体出来ることを自分の存在意義とまで語る形代=唯(カタシロ=ユイ)、地球外生命体・ETのイマジネイターたちの中でほぼ唯一の人間に好意的で、なおかつ日常生活においてはヒト型をとり続ける彼女が、イマジネイター流に問いを投げかける。
 ただし、それは地球人には聞こえるはずはない。イマジネイターたちは宇宙生命体であるため電波で通信しているが、それは人間が使う符号とはかなり性質が異なるため、それを言語のように翻訳することは大変困難だ。ただ、唯とオルクスはおなじイマジネイターであるので、ちゃんと交信自体は可能なはずである。
「……!」
「消えた!」
 天田空の視界から、オルクスは姿を消した。唯は空に向かって首を振った。その意図を空は理解した。オルクスは同じイマジネイターである彼女の交信にすら答えず、姿を消したのである。であるからして、その意図は当然分かるはずはない。
「あの隕石は……あのままだとどこに落ちるの?」
「隕石は、イマジネイターと融合しているから……ある程度は落下地点を変えられる。どこに落ちるつもりなのかも分からない」
 隕石に目を向ける。現状ではまだ情報が足りないために、ただのテロリスト集団であるとしか言えない『エルトリア』だったが。その頭目と融合合体しているオルクスは、
「これが始まりだ」
 と先ほど宣言した。これは始まりに過ぎないが、しかし分からないことの方が多い。目的も分からない。ようやくエルトリアという組織名が判明したばかりだ。だが、今なすべきことは分かっている。
「隕石を止めよう」
「ただの足止めにしては大がかりだね。とはいえ、それがこれの主目的なのかな。いまならまだ追いかけられないこともないけど、ソラはどうしたいの?」
 空は、出会って大分経ったものの、いまだに意思が良く見えずそれが虚空を連想させる、黒い淵を連想させるほど深い深い深海のような蒼の目をした、融合体を形成しているイマジネイターである唯の目を見る。ちなみに、中から人間の時の姿をわざわざ見えるようにしているのは、唯の趣味だという。
 ほとんどのイマジネイターは、融合体の核として取り込んだ『コア・モジューラー』の類は、情報源としてしか見なしていない。そのため、情報をフィードバックさせるために外界のデータは与えるが、基本的に『コア・モジューラー』にはその程度の価値しか見出していない
 だが、唯は違うらしい。意思が見えないほど深い瞳は、ただ空だけを見、空だけを求めているように見える。
「言って、ワタシに。願って、ワタシに。求めて、ワタシを。ただ必要として、ワタシを。ワタシを、見つめて。ワタシはただ、アナタに、ソラに必要とされるワタシになりたい」
 とはいえ、空には唯だけを考えることは無理だった。空には、守りたい人々がいるのだ。地上にも、それだけではない。空には家族もいる。彼女が所属する『国連の対イマジネイター戦略研究開発部門』にも知り合いがいる。知り合いでない人々も、守れるのなら守りたいのだ。それを誤魔化して、唯だけが大事などとは、言えないのが空だった。だから、ただただ正直な気持ちを、簡素な言葉に乗せる。
「私も唯が大好きだよ。一番大好きだよ。でも、他の人も守りたい。みんなを、みんなを守りたいんだ!」
「ソラの気持ちがまっすぐ伝わってくる、とってもいい言葉……行こう、大気圏に突入することになっても、ワタシがソラを包み込んで守っているから!」
「ありがとう、唯……」
 あとの言葉はいらない。空は唯と軽く口づけを交わすと、隕石に向かって自分たちを近づけるようにイメージした。それを空のイメージ通りに、時にはイメージ以上の運動で、空と唯の融合体を隕石へと向かわせる。
 それはまるで、燃え盛り猛り狂いながら墜ちていく星屑へと。それと比べれば遥かに小さい、白い色を基調とした凛々しく麗しい、ロボットのようでいて巨人のようでもある姿形の存在が向っていく。
 そんな幻想的な神話の一部のように見えたことだろう。ここに、彼女たちの姿を見ることが出来るものがいたのなら、の話であるが……


 そして、時は3週間ほど遡る。まだ『胎動していた悪意の予兆さえなかった頃』へと。あるいは、予兆はあったかもしれないが、平穏といえた日々へと……



 国連所属の『対イマジネイター戦略研究開発部門』というのは、実はあまり規模が大きい部署ではない。それでいて権限はそこそこあるのだが。その理由は、『イマジネイター』と通称される地球外生命体・ET、宇宙を拠点に活動する宇宙生命体には、地球上の兵器では対費用面などで効果的な成果を得ることが、まず不可能であるということが大きい。
 つまり、それをより効果的にするために設立された部門が『戦略研究開発部門』という名前の所以でもある。その対処方法研究のために、権限はあるものの基本は研究に終始することになるからして、あまり人数などが多い部門ではない。
 付け加えると、今は別に『対イマジネイターに効果的な戦闘方法』について確立する必要は、危急のものではないと判断されている。だから、研究は優先的につづけられているものの、やはりその規模が今後急激に拡大するということは、おそらくはないだろう。
 なにせ、『対イマジネイター』には『専門の嘱託臨時職員』が対処することになっている。それも、スペシャリストといってよいレベルの人間たち(1名は『イマジネイター』であって、ヒト型ではあるが人間ではない)がだ。


 その一方である天田空(アマタ・ソラ)は、実はいまだこの『対イマジネイター戦略研究開発部門』の本部に来ることになれていない。本部はアメリカにあるが、どう考えても日本人でしかも女子高生位、という年端のいかない少女がいて目立たない場所ではない。黒髪の肩口あたりで切り揃えられたおかっぱ頭と、若干つり目風だが大きく幼さを強調するような黒い目も、それに拍車をかけている。
 元の年齢でさえ馴染めていないのに、容姿が童顔で幼い風に見えるのだから、余計にだ。全体的に多少中性よりな見た目で、日本では身長も大体平均身長近くであるが、胸も若干控えめだから、まあ外国では幼く見えない方がおかしいだろう。
 もっとも、本部の人間で彼女のことを正確に知らない人間はほぼいないのだが。現時点では、最強にして唯一人類側に積極的に協力する『コア・モジューラー』(イマジネイターが取り込む核として機能している存在のこと)にして、『対イマジネイター戦』の切り札なのだから、彼女のことを知らない人間は新人くらいだ。

「ソラ、落ち着いて。なにかあればワタシがサポートするから」
 いつもそんな風に若干不安げな空をサポートするのは、形代唯(カタシロ・ユイ)と呼ばれるヒト型をした『イマジネイター』である。
 唯は『イマジネイター』としてはかなり強大、かつとても知性的かつ理性的な個体であるらしい。それゆえに、イマジネイター内では『スターゲイザー』や『ジャッジメント』などとも呼称されているらしい。
 とはいえ、それは人間の言葉に翻訳されたイマジネイターたちの間での呼称であるから、本来イマジネイターたちが唯のことをどのように呼称しているのかは、人間には想像出来ることではないだろう。
 空と出会ってからはヒト型でいないことの方が珍しいが、本来の性別を考えるということは無意味だろう。とはいえ、女性としか見えない容姿であるし、そういった口調を好んでいるらしいので、基本的には女性として扱われるし、彼女などと呼称もされている。ちなみにその容姿は、空の好みと思われるデザインにしたとのことだ。
 その髪は地面にぎりぎり届かないほど長いのだが、特に結ったりする予定はない 若干癖があって、ところどころウェーブしている。黒い髪のようにみえるが、よくみると深い藍色で深海を連想させる色合いであることが分かる。
 その目は、意思や感情の動きといったものが良く見えない。『イマジネイター』であって人間の姿は完全に擬態なのだから、一応人間の目と似た機能を有している、と説明しているものの、再現されているのは基本的に機能だけのようだから、感情が目からうかがい知れないのはある意味当然なのだろう。色は、黒い淵を連想させるような深い蒼で、虚空のようにも、深海のようにも見える
 全体的に空より若干低身長なためどこか幼く見えるが、同時にとてつもなく老成した、達観しているような様子にも見えることがある。それと同時に、空よりも遥かに女性的な肉感の持ち主でもある。これも、空の好みに合わせたといわれて、空は複雑な心境と表情でそれらを眺めたものだったが。

「たよりにしているね、唯」
「まかせて、ソラ……アナタのためなら、なんだってするから」
 実際、唯は『イマジネイター』ではあるが、同胞よりもよほど空のことを重視している。もともと『イマジネイター』についてはそんなものらしいが。とはいえ、実は唯は『イマジネイター』内では同胞を大切にしている部類になるらしいとも聞いたから、よほど独立独歩が強い生命体なのだろう。
 それはともかく、空は実は英語が全く出来ない。だから、ここでは唯が全て英語と日本語を通訳して、自然に会話出来ているように演出をする。相手には空が英語を喋っているように聞こえるらしいし、逆に空には日本語しか聞こえない。
 どのようにそういったことを実現しているのかはさっぱりだったが、それゆえに空が語学のことを心配する必要は存在しないのである。
「いつも熱いわねぇ、貴女たちって。ホントご馳走様って感じ」
 そんな会話をしているうちに、この『対イマジネイター戦略研究開発部門』の首席研究員である、アマネリス=イルジアナがこちらに来ていた。
「アマネリスさん、今日はどういった内容の依頼なんですか?」
「ああ、それはね……まあ、立ち話もなんだし、私の研究室に来て。詳しい話はそこでしましょう」
 そうして、本部にあるアマネリスの研究室へと赴いていく。研究室とはいえ、応接室も別個に存在しているため、おそらくはそこでの話になるのではないかと思われる。
 また、首席研究員という肩書は、ここでは実質的な権力のトップの1人でもある。まあ、気さくな人物ではあるので空たちは特にその辺を気にしたことはないが。
 そうこうしているうちに、研究室の応接室の扉の前に到着した。権力のトップの1人ではあるが、応接室は質素で堅実なものであって、華美ではない。扉もその1つであり、あまり見た目は派手というわけではない。
「さて、それでは話の続きだけど……」

 そして、扉の奥で、彼女たちのある意味剣呑な、ある意味ではごく普通の日常的な仕事の話が始まる……
 
 
 
第1章 1幕 へと続く

 
 


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