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百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 断章 フラグメント1・謀略』 [百合小説:ブログ小説]


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白騎融合合体ロンギフローラム 断章 フラグメント1・謀略



 これは、形代唯とアマネリスによる、天田空を抜きにしたプライベートな会話の記録である。彼女たちは、互いの立場から実は対立したこともある。そのような態度はおくびにも出さないが、天田空以外のことでは冷徹この上ない形代唯に対して、若干の反発があるのは事実である。
 これは、そのアマネリスと形代唯、ひいては『人間とイマジネイター』の水面下での確執に関する記録である。


 アマネリスは、形代唯と今2人きりだった。本来なら形代唯は天田空から離れることを決してよしとしないのだが、この話は出来るだけ天田空には聞かせたくはなかったのである。その程度には、人並みとまではいかないまでも、アマネリスにもそれなりの機微は存在するのだ。
 唯とて、それは同じであったのだろう。今の彼女は天田空の永遠のパートナーであって、『イマジネイター』としての肩書さえも、二の次の事象でしかないのである。よって、空を不快にさせるような内容の話の類などは、出来るだけ聞かれないように配慮していた。
 その辺の機微を、アマネリスは理解しているからこそ、形代唯も多少はアマネリスに協力的な態度を見せるのである。その機微を理解出来ない連中は、天田空からの懇願でもないかぎり、形代唯が協力をするといったことは一切ない。
 実のところ、アマネリスは人間としてはかなり、形代唯に気に入られているといってもいいくらいだった。
「それで、撃墜した『イマジネイター』が搭載していたAIなんだけど……人間が製造にかかわっていると思う?」
「逆に、そう思わない根拠を聞きたいものだ。『イマジネイター』がヒト型として動くのに必要な、人間的な思考と運動制御に関する知識などを、トレースしているわけだろう? その物体は?」
 そう、物体である。実のところ、先の戦闘で撃墜した3騎のAIを搭載したものについては、ベータが一番まともな形状を残していたが、そのAIは人間が作ったものにしては、あまりにも設計が複雑怪奇であったし、なにより作成手順やその方法を鑑みると、人間が作ったものには見えないのである。
 形としては、球状に近い。一部破損しているが、本来はおそらく球状だったのだろう。破損は全体のごく一部であるから、その推測で正しいはずである。思考回路と呼べるものは、その中にあるのだが……
「なにで動いているのかしら? 分子構造なんかから何かをプリントしているような形跡までは解読できたのよ。とはいえ、これをどうやって、演算に使用するのかがまるで分らないというわけ」
「まあ、『イマジネイター』が人間の思考を物体に模写したととらえるのが妥当だろうな。我々は単純な電気信号では思考していないから、『イマジネイター』が人間の思考をトレースするための人口知能として、人間と一緒に作成した、と考えるのが妥当だろうな」
「どうして、人間の協力が必要なの?」
「サンプルになる人間なしで、どうやって人間の思考を読み取るというんだ? 非効率的だというのもあるが、なにより『イマジネイター』と人間では通常の思考がかけ離れすぎている。なにより、人間の思考をトレースして『コア・モジューラー』の代わりに出来るだけの複雑な人口知能の作成。そう……」
 ここで、形代唯はアマネリスに聞かせる言葉が、まるで体に染み渡るかのように、ゆっくりと間をおいてから言葉を継げる。あるいは、その言葉の効果を値踏みしているのか?
「あまりに思考が人間的過ぎる。『コア・モジューラー』として動く人工知能を、我々の能力によって複製するという発想そのものがな。と同時に、『コア・モジューラー』の機能を併用して作成する必要もあるだろう。やはり、『イマジネイター』が単独で人間の思考をトレースするのはあまりに非効率的だし、時間がかかる」
「つまり、人間にも協力者がいると?」
「そうなるだろうな……私の言った通りだったろう? いつかこうなるのではないかと思った。『イマジネイター』側も人間を利用しようとするだろうし、あるいは『イマジネイター』を協力させる、あるいは協力を要請できる人間が現れることはな」
 それは、アマネリスとしては認められないことではなかった。ただ、自分より上の位の人間は、聞きたくはない事柄だろうということは、容易に想像がついた。
「ユイ、貴女はこうなることがありえる、また『イマジネイター』の破壊行動に対処できるのは自分たちであるということを盾に、天田空の身柄を社会的、文化的に保障することを、人類全体に約束させた」
「少し違うな。人類全体などというのは到底不可能だろうが、比較的文化的でなおかつ俗物的な連中については、納得させられる材料があるから、それでそういった連中の権力で動かせる範囲の人間を使って、最大限の社会的、文化的な生活に関して配慮しろ、と言ったんだ」
「……それを初めて聞くことになった人物には、同情するわ」
 それは、人類側がその要求を飲まざるを得ないことを理解してのものだし、それを理解できる知能を有した宇宙生命体・ETが、その気になれば人類に多大な被害を与えることも可能な存在である、ということをも表しているのである。つまりは、交渉であると同時に、脅しを突き付けられたのだ
「だが、飲まざるを得ない。また、ソラの安全を確保するためだからな。飲んでもらわねば困るから、色々便宜も図ってやっただろう?」
「その前に、小細工もやらかしたとも聞きますけどね」
「交渉を円滑にする手段だよ。聞き分けがない連中をその気にさせるためには、その程度の小細工は許してほしいものだ」
 形代唯が強大な『イマジネイター』であり、その思想に賛同して幾多の『イマジネイター』がヒト型として傘下に加わっているという話は、眉唾物とも言われているのだが、おそらくは事実なのだろう。
 そうでなければ、交渉材料となりうる天田空を野放しにしておくなど、まずないことだろうからである。そうして、自分たちにより有利な条件を提示させようとするのが、アマネリスより上の立場にいるであろう人間たちの思考というもののはずだ。
「道理で。空ちゃんが野放しになっているのは、そういうことですか」
「人聞きの悪いことを。別に脅してはいない。ただ私の抑えがなくなれば、潜伏しているだけの『イマジネイター』たちがどう動くか、検討がつかないといっただけさ」
 つまるところ、それを人は脅しというのだとアマネリスは思ったが、それを口にすることはなかった。形代唯がやったことは若干やり過ぎという感じも受けたものの、結局はそういったことをしなければ、大局うんぬんをいいわけにして天田空などを犠牲にしようとするのが、上のやり方だろうから。
 形代唯の疑念は正しい。同時に、形代唯に賛同する他の『イマジネイター』たちが戦闘に参加しない理由も、明らかである。彼らは形代唯の考えに共感はしているが、決して部下というわけではない。つまり、非戦闘主義者であって、形代唯が定期的に送るデータを基に自分たちの知能を高めることを優先しているだけなのだ。
 つまり、敵に回さないことは容易に出来るが、自分たちの駒としては使えないというのだ。
「どこまでが本当なんですかね?」
「……ふう。何体かは私の指示で動くだろうよ。ただ、信用できるものは少ないし、そういったものは基本的に防衛の方に回るようにいってある。いざという時以外にはな」
「……」
 アマネリスの予感は当たっていたということだろう。この形代唯が、そういった切り札を隠し持っていないと考える方が間違っているのだ。とはいえ、上もそのような予感めいたものは抱いていたのだろう。そういったことに関してだけは、やたらと頭が回る連中なのだから。
「まあ、今の問題はこいつだよ。まだ未完成に思えるが……なにか、若干設計に余裕を持たせているような気配がある。もう少し洗練するつもりだろう……先のは、実験だったということかな……?」
 そのつぶやきは、独白めいたものだったが、一応アマネリスにも聞こえていた。もしそのことが事実なら、人類はもしかすると重大な危機を迎えているのではないかとも思えるのだが。
「しかし、高速エミュレートか。思考の量子化は私も普段は空の思考系統を模写して、空自身にエミュレートさせることで思考を高速化させていたが……」
「そのことは初耳ですが」
「言ってなかったか? どのみち、ただの人間が思考の高速化なしにまともにあれだけの機動力で動いて敵の動きが見えるものか。そういた小細工程度はやるよ」
「天田空の思考も、それで制御したことは」
「はぁ?」
 形代唯にしてはかなり珍しい、じつに素っ頓狂とした物言いと表情であった。その顔は雄弁に物語っている。何を馬鹿なことをいっているんだ、こいつは?
「私はソラを、ソラだからこそ愛しているんだ。それを私が思考に介入したものが、ソラといえるのか? まあ、これはヒトにもよるだろうな。私にとっては、それはソラではないよ。これが答えだ」
「……」
 アマネリスは沈黙して首肯した。そうだろう。形代唯はそういうだろう。そういう存在であるということは、比較的長い付き合いで把握していた。

「そろそろソラが帰ってくるな。この退屈な、謀略めいた話は、ここらでいったん終いにしようか」
 そういって、形代唯は薄く微笑んだ。その表情は、天田空に見せるような晴れやかなものではなく、見る者の寒気を誘うような、冷たい凄みにあふれた、凄惨な笑みであった。


白騎融合合体ロンギフローラム 第2章 調停者と死の魔神たる統率者 1幕 へと続く
 


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