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百合のブログ小説1弾『姫君と令嬢の流儀 第3章 輝く夜に閃くは朱き華 4幕』 [百合小説:ブログ小説]


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姫君と令嬢の流儀 第3章 輝く夜に閃くは朱き華 4幕

 
 
 
 朱色の『呪』で構成された刃である『椿』が輝夜を斬り裂いて、更に朱く咲き誇っていく。とはいえ、これだけで終わるなどとは微塵も思ってはいなかったのだが……
(刃が、止まる!? まさか、体自体にも月の欠片で光の結晶を構成できるのか!?)
 とはいえ、光の結晶そのものは、そのまま『椿』が『呪』によって魔力に変換していくが、明らかに刃の進みが遅くなった。そのまま斬り裂いていくことも考えたが、いったん『椿』を押し止め、素早く距離を空けることを選択する。
「なめるなよ、人間ごときがぁ!」
 もはや、慇懃無礼さを装うことすらできずに、自らの傲慢な性格をむき出しにしながらも、『超越存在たる輝夜』はその所以たる底力を見せて、こちらに反撃を試みていたようだった。事前に察知で来ていなければ、止めを刺すどころか、逆にこちらが切り裂かれていただろう。
「舐めては、いないさ。舐めていたら、このようなことはしない」
 全くだ。『椿』は使用しているだけで、こちらの体力を大いに削っていく。下手をすれば、その場では大丈夫だと思っていても、その後突然衰弱して死亡する危険すらあるのだ。誰が好き好んでこのような危険をおかしたがるものか。本当なら、すぐにでも解除したいところだが、今解除すればまず間違いなく、輝夜には勝てない。
「いくぞ!」
 その言葉は、自らを鼓舞するためのものだ。正直、体力の消耗が激しいく、そうでもしないと体を動かすことが億劫になり始めている。『椿』による最初の一撃が効果的に作用しているために、相手との消耗戦で一方的に敗北するようなことは、まずないと思われるが、まだ油断できる状態ではない。
「舐めるなぁ!」
 輝夜は、そこでようやく遠距離から牽制を放つ決断をしたようだ。もっと早くからそれをされていれば、手も足も出なかったこともありえるが、相手も消耗している今なら、そこまで問題ではない。更にいうなら、相手の魔力も『呪』によて強制的にこちらの力に変換し始めている。呪いが聞いているのだ。だから、向こうもあまり時間をかける気にはなるまい。
「ハッ!」
 月の欠片と輝夜が読んでいた光の結晶たちは、多少の硬度はあるが自分の周囲に展開するのとは勝手が違うのか、『椿』の一撃で容易に砕けないほどではない。そうやっていくつも連続で飛んでくる月のかけらを、朱色の刃で砕きながら、輝夜に迫る。
「いけ!」
 輝夜が、更に牽制を放つが、見極めが甘い。密度が薄いのだ。左腕を犠牲にして接近すれば、一足飛びで輝夜を斬れる!
「だぁ!」
 気合いとともに、光の結晶を左腕に受けて叩き落とそうとする。気合いの言葉は、その痛みを乗り切るためのものだったのだが……
「箱庭よ!」
 罠があるかもしれない。そういった考えがなかったわけではないが。かといって、持久戦になればどちらが有利かはもはや明白ではなく、いちいち相手の行動すべてに罠がある、と考えて行動するだけの余裕がなかったのだ。だから、引っかかった。左腕の痛みは著しい。
 光の結晶そのものはとんできた数こそ少なかったが、叩き落そうとした結晶は一瞬で無数の光の格子に代わって、左腕をその場で拘束した。どういう仕組みなのかはしらないが、左腕自体がその場で完全に静止させられていて、動かすことが出来ない。この拘束を解くか、左腕を切り落とさなければ、おそらくは左腕の届く範囲しか体も動かせないだろう。
「ふふ、かかったわね。夜さえも輝きで満たす超越存在である私に逆らったから……」
 輝夜がなにか言いたかったようだが、こちらは全く聞く気がない。そもそも、なぜ相手を拘束しておきながら、悠長に会話をしようとしているのか。少なくとも、近しい力を有するものとの戦闘経験が少ない、程度には思っていたのだが、どうやら戦闘などに関する知識とセンスにも乏しいらしい。いちいち戦闘に関することが稚拙だ。口上になど構っていられない。
「呪え!」
 傷ついた左手の指、『血色の刃』を発動させる際に傷つけた傷口から、『椿』となった血を飛ばす。今の私は『椿』の苗床である血液を抱えて動く、『椿』の容器といっていい。『椿』はある程度は私の意思で動くので、このように傷口を開いて、そこから刃とかした小型の『椿』を飛ばすことなどは造作もない。
 ついでに、左腕の格子に接触して圧迫されている部分から、『椿』をとげ状に刃にして伸ばす。光の格子は、その刃によって、一気に吹き飛んだ。当然、その『椿』は私の肉や皮膚を突き破っている。左腕から大量の出血が始まるが、それは刃と化した『椿』を硬質化して傷口を覆うことで、強引に止める。痛みは止まらないが、出血は止まったから今のところは問題ない。
「なっ!」
 輝夜は、その指から飛んできた椿を避けることが出来なかった。『呪』による呪いによって、輝夜は魔力を失いながら、痛みに苛まれることになる。その隙を狙って、朱色の刃『椿』を振るって止めをさそうとするが、
「ちぃ!」
「そうは!」
 光の結晶によって、『椿』が致命傷を与えることは敵わなかった。光の結晶そのものは斬り抜けたものの、刃を留めたわずかな時間で、本命の斬撃は輝夜の肉を削ぐに留まった。
「なかなか……やるじゃない。人間だと思って、見くびっていたわ」
「それなら、私の場合はお前を買い被っていたようだな」
 輝夜の顔色が、怒気で彩られる。先ほどの展開で余裕ぶろうとしていたようだが、その余裕を装い続けるだけの度量は、どうやらなかったらしい。
「お前はいちいち、戦い方が稚拙だ」
「人間風情がぁ!」
 だが、実際稚拙だからしょうがあるまい。これが白雪なら、こうはいかないだろう。白雪ならこちらの様子を伺い、その目的がなんなのか、あるいはなにかの意図があっての事か、などそういったことを探ろうとするだけの、老獪さともいえるものがある。
 こいつには、そういったものが見られない。こちらの意図を探ったり、考えたりしないから、本来なら簡単に勝てる方法があるというのに、いちいち取りこぼしていく。
 こちらが輝夜を挑発した理由は、実に単純明快である。単純に、左腕から出血までしておいて止めを刺せていないから、消耗戦に持ち込まれたくなかったのだ。左腕は出血は止まっているが痛みは治まっていないし、そもそも『椿』は維持するだけで消耗していく。今は体内の『椿』によって身体能力が強化されているが、その代償は体力そのものを削いでいくから、追いかけっこなどをするのには、ひどく向かない。
 もはや、相手に接近することも億劫なのだ。牽制をいちいち放たれると面倒だし、それはこちらの様子を観察すれば直ぐに察しがつくはずなのだが。にも関わらず、怒気で我を忘れた輝夜は、そういったことに感づく気配すらない。これを稚拙と言わずしてなんというのか。
「おおぉぉぉ!」
 この攻防で決めるという覚悟の咆哮をあげながら、最後の大勝負にうって出る。ここで決めないと、おそらく消耗戦になって、こちらから大勝負を仕掛ける余裕がなくなる。だから、ここで勝負に出る。そうしなければ、勝利を自力で引き寄せる機会を失うだろう。

 短刀を投げる。『無明』となずけられた父の短刀。それが私の手から離れ、緩やかに放物線を描きながら、輝夜に迫る。

「ハッ!」
 輝夜は鼻で笑いながら、それを躱した。『完全にこちらの狙い通りに』
 そう、ぎりぎりで体勢を崩せば避けられる、そういう風に投げたのだから、当然多少体勢を崩せば躱すことが出来て当然だ。だから、こちらの読み通りに体勢を崩した以上は、『これは絶対に避けられない』
 白雪なら、おそらく腕などを犠牲にすることで、躱さずに被害を抑える方法を選んだだろう。輝夜はそういった戦闘に関するセンスに欠けているようだから、そういったことが出来なかった。
 ゆえに、負ける。

「お前の負けだ」
 一足飛びに、輝夜を逆胴で薙いでいく。両手で握りしめた、『出血を利用して血で作った朱色の剣、椿』でだ。

「ふん、左指から血を飛ばしたところは既に見ただろうに。なんで短刀がないと、『椿』で斬りつけられないと思った?」
 その言葉を、輝夜が聞いていたかどうか。『椿』による斬撃は今度は光の結晶で邪魔されることもなく、輝夜を斬り裂き、そして『呪』が咲き誇る。植物の椿の花は、ぼとりと落ちるというが、その名通りにというべきなのか。輝夜の上半身はぼとりと、椿の花のごとく地面に落ちていった。その肉体も、『椿』の『呪』の呪いで遠からず喰いつくされるだろう。


「見ていたか、白雪。約束通りだ。勝った……ぞ」
 それだけをいうのが精一杯だった。もう『椿』を維持するだけの体力も、残されていない。出血を止めることを忘れたために血がまた出始めているが、もはや意識を保つだけの余裕もない。
 自分の体が地面に向かっていくことを感じながら、そのまま意識を闇へと手放していく。
「馬鹿が……!」
 白雪が、切羽詰った感じで、そう叫んでいるような声が、聞こえた気がする……



エピローグ へ続く

 
 
 



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