百合のブログ小説1弾『姫君と令嬢の流儀 エピローグ』 [百合小説:ブログ小説]
■スポンサーリンク■
姫君と令嬢の流儀 エピローグ
どうやら、生きてはいたようだ。とはいえ、今の状態は実に不可解といえるものではあったのだが。それでも、ここが冥土や黄泉路の類ではなさそうだとは思えた。
大体、そういった場所が、このような寂れた廃墟の館にあるとは、聞いたことがない。おそらく、白雪が倒れた私を近くの館に運んだのだろう。中は廃墟の割には大分綺麗だったが、それでも一目で寂れていることが分かるからだ。
「おい、なんでお前が私を押し倒しているんだ、白雪?」
「……死の淵をさまよっていたあげく、助けた私に対して、開口一番の台詞がそれか。むしろ凄いな、誉めてやろう」
慣れているからな。口には出さなかったが。こういう風に『椿』を使って倒れたときなどは、治療を白雪が行ってくれるのだが、その代償ということだろうか? 目を覚ますと白雪が私に覆いかぶさっていることが、往々にしてあるので、この光景そのものには特に驚くべきことはない
「……で、助けてくれたことには感謝しよう。おそらくあのままだとほぼ確実に死んでいたからな」
「ほぼではないだろうな。確実に死んでいただろう」
「そうか、まあそれはいい……私が負けるとは思わなかったのか?」
「私が惚れた女が、あの程度の女に負けるなど、あり得るわけがないだろう?」
白雪の信頼は、信頼だけは実にまっすぐで、迷いも一切ない。それがとても、心地いい。
「……それはともかく、なんで治療が終わっているのに、体が動かないんだろうな?」
「ああ、動くには生気が足りんのだろう。寝れば明日には動けるようになるだろう」
「なんで、治療の時に生気を送っていただろうに、わざわざ動けない程度に調整して生気を送ってる」
「お前と情事を成すためだろ? 恥ずかしいことをいわせるでない」
「こんなときだけ上品ぶるんじゃない。というか、なぜ毎度やらしいことをする気満々なんだ、お前」
「嫌なのか?」
白雪が、首を傾けて問いかけてくる。心底不思議そうな問いかけだった。表情は多少ふざけている感じではあるが、真剣みはまるでない。分かったような顔をしている。憎らしい。
「いいや、お前とキスするのは好きだよ」
囁くように、白雪にだけ聞こえるように、声を出す。このような恥ずかしい言葉を言わせる白雪が、憎らしい。
「私も、お前の唇が好きでたまらないさ、令……」
口づけは、今はまだ唇が優しく触れるような感じのもので、こちらを強引に求めてくるような、そんな激しさはない。
「毎度思ってたんだが……お前の口は、吸血鬼のくせに血の味がしなくて、生臭くないのがいいな」
「お前、姫君と呼ばれる私を相手に、そんなことを考えていたのか」
また、口づけされた。今度は、唇に軽く口づけたあと、耳を甘噛みするようにキスしながら、今度は首筋へと移動していく。
「ちょっと待て」
「いやだ、待たない」
白雪は即答した。一切迷いがなく、にべもない。ただ、今回は事情が事情だけに、聞き入れてもらわないと困る。
「いや、なんか父さんのコートを着ているから……」
「着ているから……?」
「父さんに、覗かれてるみたいに感じるんだよ。だから、コートを先に、ちゃんと遠くに置いといてからにしろ」
それは、本心からだった。あと、父の遺品でもあるのだから、出来るだけシワなどが出来ないようにしておきたい。
「お前の父親は、娘とその恋人の常時を除くような、そんな下世話な人間だったのか?」
そういいながらも、白雪は割と丁寧な手つきで、私の父のコートをゆっくりと脱がすと、比較的きれいそうな床の上に、私に見えるようにゆっくりと置いた。この辺は、割と律儀なところはある。
「ああ、後ついでに山さんへの連絡を……」
そこまでいったときに、ようやく白雪が自らの服の帯を緩めていたことに気付いた。しゅるりと帯がほどける音が、静かな館に木霊する。
嫌な予感がする。とても、嫌な予感がする。だが、体が動かない以上、絶望する以外の道はないのだろう。ゆっくりと、自分の胸に浮かんでくる希望を、丹念に潰していく作業を始める。
「残念ながら、私の我慢はもう限界だ」
ああ、そうだろうな。残念ながら、白雪という女には自制や節操や貞操観念というものは、存在していないようである。まあ、これが私たちの『流儀』なのだろう……
結局、山さんと連絡を取れるようになったのは、次の日だった。報酬などの件もあるので、外で落ち合おうと言われて、いつも落ち合っている例の場所で会うことになったのだが……
「で、昨晩は白雪さんと、一日中お楽しみだった……と?」
「山さん、張り飛ばしますよ?」
「いやいや、だって、いくらお嬢とはいえ嫌味の一つや二つ、言いたくなるでしょう。私たちはお嬢のこと心配してたんですよ?」
それに関しては、ぐうの音も出ない。しかし、だからといって嫌味の類はともかくとして、なぜセクハラ系の発言をする必要があるのか。
私に一番効果がある嫌味が、それだからだろう。ということは分かるのだが、認めたくはない。
「そうですね、それに報酬やらなにやらもありますし、事後処理で忙しくなることも分かってはいたのですが」
「まあ、白雪さんがわがまましだしたら、止められませんものねえ」
「分かっていただけると、助かります」
「まあ、一応決着もついたようですし、警察としても一応面子は保てましたし、事後報告が遅れた件はまあ、いままでのお嬢のお手柄に免じてということで」
と、そこから一泊おいて、山さんはこう続けてきた。
「ところで、事後報告といえばですね、昨晩はいつもと違う場所だったわけですが、いつもより盛り上がりましたか?」
「すみません、張り倒します」
今度こそ容赦なく、山さんの頬へ私の掌が直撃し、山さんはみっともなく、吹っ飛んでいった。
百合のブログ小説1弾『姫君と令嬢の流儀』 終
というわけで、私の1作目となる『姫君と令嬢の流儀』は終了いたしました。
正直、1作目ということで、うまく構成が出来ていない面などがありまして、最後まで読んでいただいた方には、恐縮するばかりです。
一応、2作目ではその辺を考えつつ、構成を改めた『より百合ップルがイチャイチャしている作品』にしていきたいと思います。
それでは、最後になりましたが、『姫君と令嬢の流儀』を最後まで読んでいただき、まことにありがとうございました。
■スポンサーリンク■
コメント 0