百合ブログ小説:アカキキズナとムスビメと 第一章・三節 [百合小説:ブログ小説]
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第一章 三節
それは事件の始まりか?
ワタシとエスペランサは、基本的にセットの用に扱われる。というより、エスペランサを差し置いてワタシだけを動かそうとすると、エスペランサが大層不快に思うらしい。というより、実際にその不快ぶりを見た人間が、もう二度とエスペランサとワタシを引き離すな、と進言したらしい。
その顛末に至るまでの経緯がいかなるものかは、実はワタシは詳しくは知らないのだが。百選練磨のイレイザーたちでさえ、震え上がって(流石に表情では分かりにくいが)その忠告を頑なに守ろうとする辺り、想像しない方が身のためかもしれない。少なくとも、当事者であるワタシ自身もことの真相を確かめようとは、つゆほども思いもしない程度には。
つまるところ、エスペランサは徹底的にワタシを自分の所有物のように独占したいらしい。ワタシの世話を焼く気は皆無な癖に、おそろしいまでに嫉妬深く、そして身勝手な話ではある。
そもそも、それほど執着されているなどと感じるような出来事が、普段の生活ではない。ただまあ、多少の思い当たる節はあるというか、『可愛いお人形』のように扱われているという風に感じることはある。
替えがきくと感じるくらいにはぞんざいで、それでいてワタシが無関心では居られないと感じるくらいには、おざなりで気まぐれでときおり優しい。
ワタシがエスペランサに関することを端的に書けば、つまりはそういうことになる。向こうがどう感じているかなどは全く分からないのだが……
「で、ワタシのみならずアヤメさんが呼ばれている理由は、一体なんなのでしょうか? 真田さん」
「ユウキくんとアヤメくんを同時に必要とするケースは、護衛か奇襲かのどちらかしかないけれど、この場合は端的にいって奇襲だね」
アヤメと呼ばれた少女、もうすぐ少女ではなく女性と言われる年代であるところの彼女は、茶髪のショートボブに黒のタンクトップ、唯一金をつぎ込んでいるらしいスポーツシューズを身にまとった、実に活動的な見た目をしている。そしてもちろん、活動的な見た目に見合う活動的な任務を任されることが常だ。
殺める女、ゆえにアヤメ。本人がイレイザーに任命されていこう、自分の活動指針を表すために自らそう名乗っているコードネームであるが、イレイザーという組織では他に比類するものはほとんどいないほどの戦力であり、名前負けしている印象は全くない。
とはいえ、基本的に妖魔に対して攻勢を仕掛けることを全て奇襲と言い表すように、基本的にイレイザーは実力行使の組織ではない上に、人間が妖魔とまともに戦って勝てる能力を有している割合自体が多くはない。だから、妖魔と戦うときはほぼ必ず罠や隙をつくなどのやり方が基本にして鉄版であり、正面から戦うことは皆無といっても過言ではない。
「人の子のやることは、いちいち回りくどいな。私の趣味ではない」
そう小声で独りごちたエスペランサは、他の妖魔との戦いに関しても、本当にただ面倒だと思っているのだろう。同族と戦う嫌悪などがあるとか、戦いに関する気負いなどは微塵も感じられない。
そういったことを感じる道理も、またないのだろうが。これまでに会ってきた他の妖魔と、エスペランサの格の違いはあまりに歴然としていて、まともな戦いにはなりそうもないし、本気を出せば一瞬で終わることがほとんどなのだろうから、いちいち策を練るという行為自体を面倒だと思っている。
そういう人事みたいな態度なのは、実際のところ彼女はワタシこと結樹に同行するためだけにイレイザーの任務についてくるのであって、ワタシへの致命的な攻撃以外には一切関与しない。本当にワタシ以外は誰が死のうが関係ないといった態度そのものである。
それでいて、ワタシへの致命的な攻撃に関しては、見えないところでも確実に防いだ上で、ワタシの様子を伺うことに専念している。それ以外には一切興味がない。
それならそれで、ワタシが戦闘に参加することをなぜ拒もうとしないのかといえば、ワタシが戦闘に関する知識や経験を積むことを目的としているからである。それはワタシ自身の目的と一致しているからいいのだが、せめて他のメンバーにもそれなりのフォローをしてもらいたいものだ。だが、そんなことは断じてしない。
しかも、ワタシ自身の戦闘査定に関する不始末にはそれなりに厳しいようで、致命傷でない傷で済みそうな場合には、そのまま介入せず見ているだけのこともよくある。それでいて戦闘終了後にはワタシの傷を治すことは忘れない当たりは、本当にどういう行動規範で動いているのかが、よくわからないのだが。
エスペランサに言わせると、『裸体を舐めますように見て成長という変化を含めて愛でたいのだから、肌などに傷が残るのは絶対に許せない』らしい。
たしかに裸は毎日見せ合っているというか、基本強制的に見られているのだが、ついでにワタシ自身が見えないところまで見て触られて愛撫されているわけなのだが、それなら最初から戦闘に加わるとか補助位はするとか、そういうことは一切ないあたりが理解に苦しむ所以である。
「ユウキくん、これから詳しい概要を話すから、集中してくれるかな?」
「真田さん、すみませんでした。気をつけます」
真田が若干考えにふけって会話の聞き取りが疎かになりそうだったワタシの意識を、これから行われる作戦会議へと引き戻した。
予断ではあるが、エスペランサは基本的にワタシへのセクハラめいた発言だけでなく、こういったちょっとした注意にも実は反応しているらしい。らしいというのは、ワタシ自身には分からないように発言者にプレッシャーを与えているようで、それを真田経由で知ったからである。付け加えると、実は真田は少ない例外らしく、よほどのことがない限りはそのようなプレッシャーを与えられたことがないらしい。
エスペランサにも、一応はワタシ以外の人間に関して多少の興味というか線引があるらしい。
ちなみに、ワタシに関して秋波めいたことをほのめかしたりした人間が、どのような制裁を受けたかについては、流石に真田も口に出さなかった。巻き込まれた人間にはご愁傷様という他にない。
ワタシ自身にも、パートナーとみなされているエスペランサの手綱を握ることなど、不可能なのだから
続く
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