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百合ブログ小説:アカキキズナとムスビメと 第一章・二節 [百合小説:ブログ小説]


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第一章 二節 あるいは始まりからのその後



 幼かったワタシは、その後公式記録から存在を抹消するための組織『イレイザー』に『拘束』されることになった。『保護』ではない。存在を抹消するにはワタシの年齢などを考慮して、感情的に忍びなかったのもあるのだろうが、かといってワタシを解放してから公式記録を抹消すれば、ワタシの存在から綻びが生じるということもあったのだろう。
 もっとも、それ以前にワタシとともにいた『存在』が非常に厄介だったために、存在自体を『抹消処理』するという選択肢が取れなかったというのも、大いにあったと考えられる。『イレイザー』という組織にとって、その『存在、俗にいう吸血鬼や鬼』という類は、率直にいって戦力的な問題から敵対するには厄介過ぎる存在だったのだ。

 それはいまも変わっていない。ワタシは現在も『イレイザー』に『庇護という詭弁と建前の拘束』を受けている。ただし、ワタシとワタシとともにある『存在』が組織に協力し、そして組織のことを口外しないということを誓約し実行している現在、『イレイザー』はワタシたちを特別待遇で受け入れることにした。
 戦力の一部として機能している限り、ワタシは彼らから『補給物資』と『教育』を受けることが可能となったのである。それは、ワタシを気に入った『存在』が常に傍らにいるという事実を利用した、取引だった


「ああ、ええとエスペランサさん?」
「なんだ、人の子よ」
「貴方自体に用があるわけではないのですが、ユウキさんに用がありますので、一緒に『学習室』に来てもらえるでしょうか」
 『学習室』というのは、この組織の隠語であり実際には会議室である。組織として活動するのは基本的には事後処理と公式記録などの改竄が中心なのだが……いや、中心だったが正しいのか? 今はワタシと、なによりワタシと共にいるエスペランサを戦力として組み込むことが出来たために、場合によっては事前に阻止行動をとる、あるいは事件の事後の処理にそれを起こした対象の処分を加える、といったことが増えてきた。
 とはいえ、ワタシたち以外の戦力がそれほど潤沢なわけではない。本来は、記録改竄や『目撃者などの記憶を催眠術も併用する術式で操作する』といったことを行うことの専門家である。
 妖魔の類と戦うための戦力ではなく、どちらかというとそういった事後処理のための『護衛』として期待されている戦力がほとんどだ。そして、ワタシたちもそういった本業の戦力として呼ばれることも少なくはない。
「了解しました、真田さん」
 エスペランサとは、ワタシを助けた妖魔が自らなのった名前である。とはいえ、実際にはコードネームのようなものなのだろう。ある方が便利だから、便宜上そう名乗っているに過ぎない。
 とはいえ、『その女帝という自称に偽りなし』と呼べるほどに、エスペランサの戦闘力は圧倒的である。相手方の妖魔やイレイザーの面々も、戦闘の心得があるものはすぐに察しがつくらしく、まともに戦おうという選択肢は存在していない。
 ……とはいえ、実のところエスペランサとイレイザーの中には彼女と戦おうとした者もいないわけではない。ワタシとエスペランサが最初にあったとき、既に現場近くにいたイレイザーの面々は事後処理を行うためにもワタシとエスペランサを排除しよう、と画策した者もいたのである。
 その人物は今も生きているが、ほぼ一瞬で無力化された。まともな戦いにすらならなかった。全員戦闘態勢はとっていたが、その中で戦闘を行おうとした者はその瞬間に地べたに這いつくばるハメになった。エスペランサが自分から敵意がないことを伝えたとき、その場にいた者は彼女を信じたわけではない。
 単純に、従わなければ抵抗すら出来ずに死ぬ、ということが分かっただけである。最も、今ワタシを呼んだ真田のように頭のキレる人間も現場にいて、その人間に言わせればそれだけの戦闘力を持った存在がわざわざ小細工をする必要はない、即ち提案そのものが罠ということはまずないだろう、という考えもあったらしい。

 結果からいえば、その公算は正しかったといえる。エスペランサとしては、単にワタシを生かしておくには、人間の協力者が必要だと判断しただけのようではあるが。それも、協力者は多いほうがいいというそれだけのことに過ぎないようだ。
 ついでにいえば、彼女は実のところ面倒事や厄介事などが嫌いであり、その上同族を狩ることに忌避はないが、ワタシを戦わせて楽しみたいという理由で、自分が戦闘に積極的に参加することは皆無である。
 最も、一応ワタシの面倒その他雑用を『イレイザー』が担当するという条件と引き換えにか、イレイザーの面々が負傷しそうな場合のみ、その力を嫌々ながら行使することがある。
 それが、ワタシたちが信頼されているとは言いがたいが、任務を任されるくらいには重用されている理由である。

 ワタシ自身としては、妖魔を屠ることそのものが自身の存在理由であり、なにより生きがいを感じる時間でもあるから、この境遇を不満に思ったことはないのだが……


続く





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