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百合ブログ小説:アカキキズナとムスビメと 第一章・一節 [百合小説:ブログ小説]


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第一章 一節 もしくはプロローグ


 始まりはアカイ炎だった。それが私達の始まりであり、同時にそれまでのワタシの終わりでもあった。
ワタシはまだ幼く、そしてそれ以上に無力だった。小さな小さな、山林と自然と緩やかな人間の衰退に満ちた集落で、ワタシたちは生きていた。
 そう、そのときまでは……今となってはただの記憶、忌まわしい記憶の残滓でしかない。実際、その集落の末期については公式の記録には残っていない。
 『妖かしや怪異、妖怪や怪物』と呼ばれるものを、私達は現代科学と淡い幻想を含んだ常識という知識で否定している。
 だが、この国家には秘匿されるべき存在が、厳然として存在しているのである。だが、その存在はあまりに強大であり、かつそれでいてあまりに局地的な被害であるから、大抵の国はその存在自体を表にすることをしない。
 内々で見なかったことにするか、あまりに調子に乗ってでしゃばってきた愚か者を討伐するのみで、私達のような『僅かな被害』については、そもそも生存していたという事実そのものをなかったことにする。
 その方が、結果的に被害が少なくて済むし、なにより楽なのだ。それが、この国の上層部の認識というものであり、常識的な判断なのだった。

 ワタシが覚えているのは、家族とその隣人たちが寄り添って生きてきた証たちが、アカイアカイ炎に包まれて消えていく姿だった。死人による腐臭もその炎にかき消されていく。
 そもそも、なぜワタシは生きていたのかが分からない。単純に運が良かったとも言えるのだろうが、他の者達はそもそも炎に包まれる前に血飛沫でアカク染まっていたのだ。
 なぜワタシだけが血飛沫でアカク染まることが無かったのか。その謎は未だに解けていない。どの道、そのままではワタシも遠からず、炎にアカク染まって死にゆく運命ではあった。
 ワタシは、家族の変わり果てた姿を魅入るようにして、粗末な一軒家に留まっていたのだから。炎に彩られたその家は、もしかすると今までで一番美しい我が家であった瞬間かもしれない。

「いっしょに来るかい?」
 その女は、その声を発する瞬間まで我が家にはいなかったはずだった。クライ色に全身を包みこんだ、不吉な気配の女だ。ただ、その女はそれでもなお惹きつけられ、魅入ってしまうほどに美しい女であるし、なによりそのときのワタシにとって最も魅力的な言葉を投げかけて来たのであった。
「仇を討ちたくはないかい? 全てを奪った相手から、逆に全てを奪いたくはないかな? 私とくれば、そのための力をあげよう。いつか、機会があるかもしれないよ?」
 いまから思えば、馬鹿な話である。この女は力をやるとはいったが、仇を討つ機会を与えてやるとはいっていない。機会が訪れるやもしれない、という実に曖昧な言い方をしているのである。
 だが、ワタシにはどの道それ以外の道は残っていなかった。後になって分かったことだが、ワタシはワタシ自身の記録さえ公式に抹消されていたのである。家族もなく、家族の記録さえ公式から抹消された幼い存在に、他にどう生きる道があるというのか?

 『それでも、このとき死んでおくという自由はあった』
 後になってそう思うのは、この女もまた悪魔のように狡猾で、この取引も悪魔の取引に過ぎなかったからである。この取引に代償が必要だったことが分かったのは、ワタシが頷いてこの女とともに自らの故郷を後にした、その後になってのことであるからだ……


第二節に続く




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