百合ブログ小説2弾『白騎融合合体ロンギフローラム 断章 フラグメント2・エルトリア会議』 [百合小説:ブログ小説]
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白騎融合合体ロンギフローラム 断章
フラグメント2・エルトリア会議
サラ・テンペストが後に『エルトリア』と呼ばれるテロ組織の基礎を作った人物であるという事実は、実はエルトリアではあまり認識されていない。『イマジネイター』であるはずの『オルクス』があまりに冷静で的確かつ厳格な性格をした、カリスマと呼べる存在であるために、そのパートナーであるサラがリーダーであるということは、象徴的な意味合いだと思われているのだ。
しかし、サラは特にそのことを訂正する様子はない。初期のメンバーもそのことは承知しているが、彼らは特にそれを訂正するつもりはないらしい。実際に、作戦の立案などは現状オルクスが率先して行なっているため、実質的に害がないからであるが。
ただ、オルクス自身としては心外である。黒目に長いストレートの癖のない黒髪、若干浅黒い肌とその体を覆うピッチリと張り付くようなライダースーツのような見た目の黒服と、その長身と怜悧な印象を与える顔立ちは、全体的に冷徹な印象を与え、まさしく黒ずくめの美しい死の女神といった風情だ。しかし、彼女自身が率先して組織を率いているわけではなく、彼女自身はサラの願望を叶えることを第一に行動しているのである。
つまり、『エルトリア』の作戦遂行はサラの願いであることから、組織としてエルトリアが機能するように働いているのであって、自身が率先してエルトリアの指揮をとるつもりなど、彼女には毛頭なかったのだ。
ただ、周りはそうは見ていないことは薄々ではあるが感づいていて、なおかつサラは聡いが若干直情的な性格であることも熟慮していたオルクスとしても、その方が都合がいいだろうという判断のもと、それを訂正することはなかった。
「しかし、その齟齬が問題にならないというのは、いささか込み上げてくるものがあるな」
オルクスは、自身のパートナーへそう言葉をかけた。普段は無駄なことは喋らないと認識されているオルクスであるが、別に彼女は沈黙を至情としているわけではない。話しかけられれば、当然雑談程度は割り気軽に応じる。というより、人間観察が趣味と自称している彼女はむしろ歓談に積極的に応じる気でいるということは、彼女の容姿の冷徹な印象が災いして周知されていないことである。
「私は全く気にしていないけどね。それよりも前回の作戦の方はどうなったの? 成果は上々?」
「同志の犠牲による成果、か。なぜそのようなことを気にする? 我々に出来ることは結局のところ、同志が自らを犠牲にして入手した情報を元に、最高の成果を上げることだけだろう」
「それは分かっている。問題は、その情報がどの程度のものだったかという……」
「ワタシの言葉を理解していないようだな。ワタシは同志が命を賭して得た情報を、わざわざ査定するような真似をするつもりは毛頭ない。彼らの犠牲を尊重し、それに対して最高の成果を発揮することに尽力すること以外、ワタシは考えていない」
「……悪い。そういえば、あんた意外に仲間思いだったわね。見た目から勘違いされがちだけど。ただ、私は別に査定をしたいわけじゃない。その成果をどう活かすかを、協議したいだけよ」
「ワタシも少々言い過ぎたようだな。たしかに、その成果をどう活かすかは協議すべき事柄だ。しかし、ワタシが仲間思いとは、いささか引っかかる物言いだな。ワタシはリアリストなだけだ」
オルクスとしては、犠牲を強いた責任を果たすこと以外に興味はない、ということを言いたかっただけなのだが。今生きている者たちに出来るのは、結局はその程度のことでしかない。彼らの犠牲に対して批評をしたところで、それで現実が変わるわけではないからだ。
「そうかしら? 少なくとも私には、犠牲になった者への敬意というようなものを、あんたに感じられるけどね」
「気のせいだろう……」
オルクスは即座に一蹴したが、サラからすればむしろ自分以上に仲間意識が強いのではないか、そう思えてならないことが多い。少なくとも、サラはオルクスと話していてこういった仲間に関することで、しばしばオルクスから指摘を受けることがあるからだ。どうかんがえても、仲間を単なる道具としてしか見ていない者の対応ではない。
「……それよりも、成果の件についてだが。正直こちらにはかんばしくない情報が多かった。敵はロンギフローラムだけだが、連中はそれに多戦術機構を組み込んで運用することに、一定の成功を見ている。これは我々には不利な状況だな」
「多戦術機構? 戦術に応じて機能を組み替えるということ? しかし、相手は強力とはいえ単騎なのだから、こちらが相手の出方に合わせて戦術を変更すれば、十分に……」
「それは一般的な、地球製の機械に対する戦術論だな……向こうも『イマジネイター』であることを忘れるな。加えて『カタシロ』はとても強力な個体だ。形成する物体の構成を予め構築さえしておけば、それを瞬間的に組み込むことも可能だ。制限はないわけではないがな。とはいえ、多戦術機構は一瞬で組み換えが可能だと思っていい」
「つまり、こちらの出方に相手が柔軟に応じることが可能ということ? それはたしかに問題ね」
「しかし、その機構に関する情報は今まで無かった。これは、おそらくは我々の情報不足などではなく、いままで運用した経験がないものと推測している。従って、先日の情報から推測出来る機構以外に関しては、性能などは未知数だが。向こうもあまり運用の経験はないだろう。それだけが我々に有利な情報だな」
「なぜ、そんなことが分かるの?」
サラは、オルクスにそう尋ねた。もっとも、サラにもある程度の推測は出来ていたが。どうもオルクスが参謀役のような役回りをするせいで勘違いされがちだが、別にサラが知的な考察を苦手としているということは、全くない。むしろ、そういった戦術的な考察などは、本来はサラの趣味であり娯楽でもあった。
オルクスは、むしろサラのそうした趣味を参考にして、いまのような役回りを演じているのである。というか、サラたちからすると信じられないことだが、実はオルクスは頭を使う理論構築などの類のことは、むしろ嫌ってさえいるフシがある。必要だからというだけで、決して趣味ではないし好いてもいないらしい。
ただ、見た目だけは大人しささえ感じられるサラ自身が話すよりも、怜悧な印象を与えるオルクスの方が都合がいいということも手伝って、オルクス自身がこういった考察を率先して語っているだけである。必要がなくなれば、オルクスは一切頭を使うようなことをするつもりはないだろう。
「それは、『コア・モジューラー』が戦闘を専門にしていた人間ではなかったからだろうな。多戦術機構に対応出来るだけの能力があるかどうかが、完全に未知数だったからだろう。しかし、カタシロも愚かなところがあるものだ。いや、過保護なだけか? 『コア・モジューラー』としての資質は、人間としての戦闘経験とは完全にというわけではないが、必ずしも比例するものではない。ヒト型ではあっても、完全に自分の肉体ではないものを扱うのだ。必要なのは人間としての戦闘力ではなく、モジューラーとしての適応力と柔軟性だ」
「自分と異なる異質な感覚を、自分のものとするための柔軟な感性……」
それは、実はオルクスが常々口にしていることである。人間としての屈強さなど、このことに比べれば全くと言っていいほど重要ではないと、オルクスは常々口にしている。サラも、オルクスと何度か融合形態をとった経験があるが、全くもって同意である。
人間として合理的な肉体の動かし方さえ、ヒト型ではあっても人間ではない『イマジネイター』の融合形態にとっては、必ずしも合理的でも有用でもないことさえある。より重要なのは、その形態の特性を理解した上で、最適な行動を実現することだ。そのことに関しては、多少は戦闘に関する知識が有利に働くこともあるだろうが、やはり相方となるイマジネイターの形態に関する理解が先にないと、それが有効に働くことはまずない。
「アマタ・ソラとかいったっけ。『コア・モジューラー』としては優秀ということかしら?」
「さて……そこまでは言及は出来ないが。事前に特性に関しては話を聞いていたかもしれんしな。だた、戦闘中に機体特性を理解したのか、動きが急激に変化していった。柔軟な感性の持ち主で有ることは否定出来ないだろう。コア・モジューラーに最も重要なものを、ソラとかいう人物は持っているようだ。自分とは異なるものを操るという感覚に、慣れるだけの搭乗時間があったというのも、大きな要因なのだろうが」
「私たちが、その多戦術機構を採用しないのは、それが理由?」
「どういう意味だ?」
「搭乗時間が足りないという部分よ」
サラが気にしていたのは、どうやらオルクス自身も多戦術機構自体は検討していたフシがあるということだった。であるのにそれを採用しなかったし、おそらくはこれからも採用する予定は無さそうなのが気になるのである。手を抜いているとは考えない。オルクスが戦闘に関してそれを行うということは、おおよそ考えられない。
……実のところ、オルクスは戦闘に関すること以外は、存外ズボラである。少なくとも、勤勉ということはまずない。割りと戦闘に関すること以外には、むしろ積極的手を抜こうとする。その長身で冷徹そうな見た目とは、実に裏腹にである。
「そうだな。あとは、他のメンバーの適応力に関する問題と、『イマジネイター』自体の能力にバラツキがあることも理由だ。多戦術機構を戦場の変化に合わせて活用できるような存在は、あまり多くはない。それに我々には数的有利と役割を分担出来るという点があることも忘れてはならない。以上を考えると、ある程度役割分担に応じた設計を初めからしておくことが、一番だろう」
「私たちに関しては?」
「同様だよ。カタシロたちと決着をつけるとなると、我々が戦うことになることは、ほぼ確実だ。となれば、我々にとって最も適した設計の形態で挑むことが重要だ……サラ、お前よりも相手の方が、戦闘経験では確実に上というのも、理由ではあるが」
「私には使いこなせないと?」
「……ハァ……相手と戦うのに、わざわざ不利な条件で戦うことはあるまい? 言っておくが、多戦術機構を組み込むということは、こちらにも負担がかかる上に、特化した設計ほどの性能は発揮させれんぞ? 多戦術機構を装備するための機能は、素体の方に予め仕込んで置く必要があることは忘れるな。いくらイマジネイターとはいえ、そういった仕組みを予め組み込んでいない状態で、拡張機能を一瞬で装備することは不可能だ。継ぎ足しはともかく、形態の再設計にはそれなりに時間がかかる」
オルクスは、呆れたような嘆息の後、子供をあやすような口調でたしなめてきた。サラからすると、そのオルクスの態度が、その言葉の内容よりもむしろカンに触るのだが。だが、オルクスがそういった口調でたしなめている理由は理解できる。コア・モジューラー同士で対抗意識を燃やすことは構わないのだろうが、それは闘志に変えるならであって、戦闘における戦術に個人的な感情を挟むなということだろう。
オルクスは意外にサラには甘いことが多いのだが、こういった戦闘に関することに関しては一切妥協しない。戦うことそのものの理由は個人的な感情だろうと肯定するが、その戦闘方法には一切感情を挟むことはない。いつも冷徹なまでの理論のみで戦闘方法を考案するのが、オルクスの主義だ。
オルクスそのものは戦闘狂ともいえる性格なのだが、その割にはサラなどよりもよほど手堅く戦術を考案する。戦闘をしたいという願望と、戦闘方法に関する考えはオルクスにとっては完全に別の事柄らしい。
「そう、じゃあ私たちはどうするわけ?」
「無論、我々に最も適しているとおもわれる戦闘方法に合わせて、最も一対一に適した設計を構築する。いままでの運用試験は、秘密裏に行う必要もあった上に、お前の慣らしという要素の方が大きかった。しかし、今後はある程度向こうの出方を予想した上で、それに対抗出来るだけの設計にまでクオリティを向上させる。一応、いままでの設計を煮詰める形にはなるはずだがな」
「大幅な路線変更は考えていないと思っていいわけね。基本的には出力が向上しただけと思っていいと?」
「そういうことだ。イメージトレーニングは欠かすな。今度の作戦は前哨戦だが、場合によってはある程度ロンギフローラムと交戦する必要があるやもしれん……他の連中で必要な時間を稼げるかどうかは、未知数だからな」
「分かった。今度の作戦が成功するかは、私たちにかかってくるかもしれないわけね」
「そうならないように、作戦は考えるがな」
オルクスは、そういった皮肉を言うことも忘れなかったが。しかし、オルクスの言うことは一理ある。作戦はうまく行かなかったときの保険を考案しつつも、あくまで最も効率的な作戦を遂行可能なように立案するものだ。保険はできるだけ使わないで済む方が望ましい。同時に、計画の立案は保険を使わなくてもうまくいくと、楽観的に考えることは厳禁でもあるのだが。
とはいえ、私たちはあくまでうまく行かなかった場合の保険であって、出番がないほうが当然望ましい。
それに、交戦するような事態になれば、向こうの実力を把握できるものの、向こうにもこちらの戦闘方法などをある程度推測させる材料を与えることにもなる。それは、こちらとしては避けたいことなのだ。
「おそらくは、こちらの最終調整には間に合わない。それに設計が終了しても、その慣らし時間が皆無で戦闘することは避けたいからな。今回はあくまで前哨戦だ。我々の決戦には、それなりにふさわしい状況を整えてから挑むべきだろう」
「分かっている。そのために、エルトリアはいままで活動してきた。それに、その決戦が私たちの計画の終わりではないからね」
「……そうだな」
そういうと、サラはオルクスの唇に自らの唇を合わせた。オルクスは表面上は気のないふりをしていたが、サラの口蓋を強引にこじ開けて、中を温かいもので蹂躙してくるあたり、案外ムッツリすけべなところがある。サラの体に興味があるなら、自分から接触すればいいのに、それをしないあたり、奥手で可愛いところもある。と、サラは勝手にそう思っているのだが。オルクスがそれを聞いたら、おそらくは憤慨するだろう。
しかし、それにしてもオルクスからすると、カタシロらとの決戦以降のことなどどうでもいいことなのだろうが。サラにもそれは用意に察することが出来た。しかし、だからといって興味のあるカタシロとの決着以降のことを、完全にいい加減なままに投げ出すようなことも、まずはするまい。
この『エルトリア』を司る死の魔神、『オルクス』は意外に義理堅い人情家なのだ。少なくともサラはそう思っているし、実際にオルクスは義理堅い面を感じさせる機会が、案外多いのだった。
白騎融合合体ロンギフローラム 3章 生まれ落ちた悪意の星屑たち 1幕 へと続く
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