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百合のブログ小説1弾『姫君と令嬢の流儀 第3章 輝く夜に閃くは朱き華 3幕』 [百合小説:ブログ小説]


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姫君と令嬢の流儀 第3章 輝く夜に閃くは朱き華 3幕




 移動を開始したのは、土曜日の午前中である。まだ日が昇り始めたばかりの頃である。日光が出ている時間に目的地に到着するのは、絶対条件の一つだった。
 なにせ、日が落ちてしまえば、白雪が全力を出せてしまうのだ。そのような状況であれば、少々の隙をみせたところで、そうそう誘いにはのるまい。最低でも、こちらが罠を張っていても付け入る隙がある、と相手に思わせることが出来なければならない。
 その次の策として、白雪は私との『縁(えにし)』を追尾出来ない位置に移動している。それは、相手にも白雪が私の気配を追尾できていない、とちゃんと伝わるとは、白雪が太鼓判を押したから間違いがない。
 そのため、目的地までは、体力を温存できる範囲で出来うる限り急いで移動した。『白雪の反応がない状態』で外に出れば、場所によってはそのまま襲われかねない。相手の慎重さを、ここでは信じる必要が出てくる。
 ただ、自分が次第に人気もない場所へ、退魔組織の勢力圏からも離れていくのであれば、それなりに慎重な相手ならば、ある程度の罠を考慮しても待つだろう。そういう計算も考慮して『白雪の気配がない状態』であっても、出来るだけ手を出すのには躊躇する場所を選んで移動している。その程度は織り込み済みだ。
 しかし、相手の自制心に期待をしなければ成功しない作戦というのは、実に皮肉なものだ、と笑わずにはいられない。


 結局、期待は裏切られることはなかった。感謝する気には到底なれないのだが。とはいえ、無事に予定通りに事が運んでいることには、素直に安堵する。
 とはいえ、学生の貴重な休日を、こんなくだらないことに使わなければならないということに、怒りを覚えずにはいられないのだが。しかし、退魔士は己の身命を賭した仕事でもある。その仕事と思えば……いや、やはり無理だった
「呆れるほどの熱心さだな。その熱心さで他の奴を探そうと思わないのか?」
 その問い自体には、実はそれほど興味があったわけではない。相手に、自分が接近されていることに気付いているぞ、というサインに過ぎない。しかし、考えなしに襲いかかるつもりであったのなら、それなりに意味はあるだろう。
「いいえ、あの白雪の姫君が執着するほどの存在ですから……貴女は強く、凛々しく、そしてなにより美しい。とても蹂躙しがいがあるというものですわ」
 その存在は、意外に外見は礼儀正しい風を装っていた。その奥に潜む傲慢さにはすぐ気付くが。人はそれを慇懃無礼というのだが、この存在はそれについては理解しているのだろう。
 それにしても、意外なことにその存在の衣装は、金糸の刺繍が全体に施された白地のワンピースに、白い日よけの帽子という、実に現代的な服装をしていた。その瞳と髪は蜂蜜色であるが、肌を焦がすほど熱い、燃えるような視線を感じる。髪の長さは白雪と同程度で、腰に届くほど長い。やはり、『超越存在』だけあって、あまり戦いのことは考慮していないようだ。
 しかしそれにしても、想像していたよりもずっと小柄だった。それでも165cmくらいはあるだろうが。もう少し長身の女を想像していた。身長自体は、私よりもむしろ低い。
 とはいえ、身体能力が私よりも劣っているなどとは、微塵も思わないが。白雪も身長は似たようなもので私よりも小柄だが、単純な身体能力だけでも圧倒的な差がある。
 単純に正面から戦えば、一瞬で組み伏せられるか、立っていられない状態にされ、地面に這いつくばることになるか、のどちらかしかない。
「悪趣味だな……名前は?」
 それも、体力を回復させるための時間の引き伸ばしでしかないが。なんとなく相手の態度から、この状況を密やかに楽しんでいる気配が感じられたので、これにはきっと相手ものってくるだろうという、確信に似たものがあった。
「なぜそのようなことを、貴女のように美しいお嬢さんとはいえ、たかが人間に教えなくてはならないの?」
「睦言で自分の名前をささやかれたくない、というのなら別に構わないが」
 っくくっ。相手から押し殺してはいるが、間違いなく笑いが零れた。どうやら、想定外の一言だったようだ。そして、明らかにそのいいように興味を示している。言葉の選択は、誤っていなかったようだ。
「そうですわね。名前を知っている女の子の方が、嬲りがいがあっていいですわね。いいでしょう。私の名前は『輝夜』、輝ける夜、という意味でそう名乗っておりますの」
「……その様子だと、人間からそう呼ばれたから、ということではないようだな?」
「ふふ、私にあって正気だったまま逃れられた人間は、いままで存在しませんし、なにより人間ごときに名付けられるなど、屈辱の極みと言うものでしょう?」
 やはり、『輝夜なる真の超越存在』とは、相容れることは出来ない。白雪はあれでいて、私自身の個性のようなものを認めていて、それを楽しんでいる感じがする。が、こいつはそういった個性といったものにはあまり感心がないようだ。
「ただ、私は貴女のように賢いお嬢さんは、好きですわよ?」
 そう言っているが、お人形の見た目以外にもいい所があった、と褒めている感じを受ける。やはり、相容れる存在ではないようだ。だが、今までの慎重な対応の仕方から、御しにくい相手だろうと予想していたが、なかなかどうして、かなり御しやすい相手ではある。決闘相手としては、実にいい相手だ。
「輝夜、ゲームをしよう」
「ゲーム? 私が、人間ごときと?」
 そういって人間を見下しているように見せているが、こちらの言葉に興味があることが透けて見えている。恐ろしいくらいに分かりやすい。楽なので、この上なくありがたいが
「そうだ、私と輝夜、お前との一対一の決闘だ。白雪には『直接的には一切手出しをさせない』、どうだ?」
「うふふ、そうですわねえ……? どうしましょうかしら?」
 悩んでいる風だが、明らかに乗り気である。どうせ、白雪が援軍としてくることは考えていたのだろうが、それをこちらから排除すると言っているのである。『信じられる約束』ならば、乗らない手は向こうにはないだろう。
「たしかに……姫君の気配は感じられませんけど……よろしいんですの? わたくし、女性を嬲り尽くすことが、なによりも好きでしてよ?」
「決闘を受けたととるぞ、輝夜。では、お前には、命を懸けてもらおうか」
「ふふ、本気でいってるんですの?」
 あざけるような、輝夜の口調。たしかに、こちらは輝夜の能力が分かっていない。それでいて、向こうは私の手の内の一部を知っている。普通に考えて、こちらに有利な条件は一切ない。そして、なにより身体能力と魔力では向こうが圧倒的に上だ。それを知って、なお。
「悪いが、勝つのは私たちだよ」
 宣言する。自らを鼓舞するように。唯一無二のパートナーを安心させるように

「おいおい、気付かれたらどうする気だ? 全く……」
 令の宣言は、『縁』を通してではなく、吸血鬼としての優れた聴力で聞いていた。元別荘の廃館は、『視力に関する魔力感知』の能力を持った超越存在に対しては、『魔力と気配を隠す隠形を加えることで』完全な隠れ蓑と化す。
 私の方は魔力を音色として、目と耳の双方で感知できるが、輝夜とかいうのはどうせ視覚に特化した魔力の知覚能力の持ち主だろうと思っていた。
 そうでなければ、こちらの魔力感知範囲から逃れて、一方的にこちらを観察するのは非常に難しい。前に戯れと挑発を兼ねて、令の肉体を見られていると承知で弄んでみたが、その様子に怒りの音色が混じったことからして、こちらの様子が見えていたと考えるのが、一番自然なのだ。
 他の感知方法では、詳細な様子までは容易には分かるまい。他の探知方法も考えられたので、推測の域を出てはいなかったのだが、勘が確かだと告げていたのだ。どうやら、当たりだったようで、単純に視覚として魔力を捉える能力と、視覚強化の能力が高いだけで、他の魔力探知能力は低かったらしい。
 こちらからは視覚で魔力は感知できないが、魔力の音色が聞こえてくるし、聴力や触覚で多少は戦況の把握を補強することが出来る。
「まあ、手を出す気はないがな……」
 囁くようにつぶやく。実際、現状だと私が出た時点で、向こうは恐らく撤退するだろう。ただの人間の退魔士である令が決闘を申し出たからこそ、向こうはそれを受けたのだ。だから、今すぐ手を出すのは下策でしかない。せめて、令が相手に一矢報いてからだ。
「……私も甘いな」
 本当は、輝夜に気付かれずに致命的な一撃を放つことは、不可能ではあるまい。ただ、令自身がそれを望んではいないだろう。だから、手を出さない。ここにいるのは、令が敗れた場合の保険である。
 ちなみに、ここには令の血を使用した。令の血は魔力こそないが、こちらは令の血と『縁』を結んでいるのだから、令自身でなくても、令の血があれば、それを目印にして飛ぶことは出来る。『隠形と壁による視界の妨害を合わせれば、相手の注意が緩んだ瞬間に、遠距離からその目印に向かって、気付かれずに飛ぶことは可能なのである』
 その血をあらかじめ撒いたのは、山の字だった。一応言っておいた陣形に多少は近い形にしてはいる。正直理想とは程遠い形だったのだが……まあ、文言すら解読できない無能力者の人間に、魔力の受け皿に都合のいい陣形など、到底理解は出来まい。なんとか目印に出来るくらいには仕上げてあるのだから、妥協してやるのが筋だろう。
「さて、お膳立てはすんだぞ」
 万が一のときは、私が止めを刺すことになっている。だが、私は令の勝利を信じているから、手を出すつもりはない。相手が手負いになって逃げないことをこそ、私は警戒している。
「勝てよ、令」


「さあ、始めようか」
 その言葉とともに、決闘を始める。とはいえ、向こうはこちらの出方をうかがうだけだ。まだ、侮っている。それでいて、慎重でもある。
「白雪! 赤き華を喰らい、その対価をなせ!」
 その言葉とともに、自分の左指を短刀で軽く斬りつけて、赤い血をにじませる。輝夜は、その様子に若干だが驚いたようすだ。それはそうだろう。おそらく、化け物の血を力に変える文言が刻まれた『呪』だと思っていたのだろうし、魔力によって短刀に刻まれた文言自体は、今もそうできている。
 だが、白雪との『血』に関わる盟約は、白雪が死ぬか私が死ぬかのどちらかでない限りは、『血』そのものに刻まれた文言で短刀の文言を補強する。そして、条項に『私自身の血』が加わる。吸血鬼は、人間の『血』を魔力に変える特性を有しているからだ。
 とはいえ、普段はこうした行為は行わない。自身の血を魔力として捧げるという行為は、ひどく消耗するからである。だが、『仮にも超越存在』である相手に対して、そのようなことは言えまい。『血色の刃』は輝夜と戦う以上は必要最低限の武装だ。
「いくぞ!」
「夜照らす月の欠片よ、刃となれ」
 それが輝夜の由来か。月の欠片と呼ぶに相応しい淡い光の欠片が集い、瞬時に刃となった。輝夜もこちらへ向かってくる。あえてこちらの距離で戦い、心を折ろうという気でいるのだろうが。技そのものは拙い。刃の軌跡は見え見えだ。
 それでも、受け止めるだけで精一杯だった。こちらから攻めたというのに、相手の防御で逆にこちらが大勢を大きく崩される。後方に飛ばされながらも、なんとか転ばずに済んだのが、むしろ僥倖といえる。
 やはり、足りなかったか。

 『この血色の刃だけでは』

 その判断は、実のところ相手が向ってくる速度などで判断できていた。切り札を温存していては、そもそも相手とまともに戦うこと自体が不可能であると。だから、刃で斬りこみながら、同時に叫んでいた。
「我が朱の華を苗床とし咲いて裂いて咲き誇れ、『椿』」
 そうして、自分の懐へと『血色の刃』を突き刺す。二度目になる、輝夜の驚く顔が見れたことは、とてもいい収穫だった。超越存在にとっても、この行動は意外だったらしい。
 ちなみに、『血色の刃』は短刀本体以外は特に私を傷つけるようには出来ていない。あくまで盟約に従い、私の敵の血肉に作用する『呪』だからだ。私自身は私にとって敵ではないので、当然対象外である。たた、この言葉をつぶやいたときは若干事情がことなる。
 この言葉とともに、『血色の刃』は私自身の肉体を刃の苗床として、強化する。同時に、必要な魔力の量が激増する関係で、うかつに使用するとそのまま気絶して死亡しかねない。今も、唱えた瞬間から脱力感が体を襲っている。
 ただ、今回は懐に仕込んだ『私の血の結晶』があるから、多少はましなのだが。白雪から手渡されたそれは、私自身の血であるから、輝夜にはただの血液にすぎないが、『椿となった短刀と私にとっては、魔力の供給源』として活用が可能なものだ。
 これがない状態では、長くは持たない。本来なら、『ほぼ一撃で片を付けられる状態以外では使うな』と白雪が真顔で忠告するような代物である。この『血晶』は白雪が作ったもので、念のために持たされていたものだが、とてもではないが使用を躊躇出来るような状況ではない。
 この呪文が完成するまでの間に、輝夜を見失っていたのだ。これらを使用しなければ、おそらくこのまま負けていただろう。

「だあぁぁ!」
「なッ!」
 一度は完全に見失っていた輝夜を、今度は気配で察することが出来た。今の私は『華刃 椿』を動かす動力源のようなものだから、『椿』によって、普段なら出来ないような身体能力を発揮することが出来る!
 触れ合った朱と白い刃は、今度は拮抗するどころではない。白い刃は魔力で構成された物体であるから、それを吸血鬼の特性で『吸血』するように、吸い取って血肉に変えていく。輝夜は手を誤ったのだ。こちらがこれを使った瞬間に、それを察知して距離を離せば、恐らくはこちらが消耗して敗北していたこともありえた。だが、それはもうない。

 一瞬で白い刃を血肉とした『椿』は、そのまま輝夜の体に迫り、輝夜の体を容易に切り裂き、血肉としていく




第3章 輝く夜に閃くは朱き華 4幕へ続く



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