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百合のブログ小説1弾『姫君と令嬢の流儀 第3章 輝く夜に閃くは朱き華 1幕』 [百合小説:ブログ小説]


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第3章 輝く夜に閃くは朱き華 1幕

 
 
 
「条件がある」
 白雪の顔は、珍しく真剣で切羽詰っていた。ここまで余裕をかなぐり捨てたような表情は、白雪にはかなり珍しい
「なんだ?」
 ちなみに、白雪は最初は私の出した意見に断固反対した。お前が単純に戦って勝てるはずはない、と。それは正しいのだが、戦う際の戦術をいくつか提示することで、なんとか白雪を納得させた。ちなみに、白雪とあの女ストーカーが直接戦うことは、リスクも伴う
「お前が先ほど追加した条件は、飲んでやろう。たしかに、お前のいうことにも一理ある。あの女ストーカーと私が戦うことによるリスクは、単純な生き死にだけでは済まなくなるやもしれん」
 そう、退魔組織から目を付けられるかもしれない、ということだ。目立たなければ見過ごされるが、二つの超越存在がもしかすると全力をぶつけ合うかもしれない。その結果がどうであれ、退魔組織から殲滅を企てる恐れがある。
 さすがに、組織立って殲滅の行動に出られるのは、白雪としてもあまり面白い結果にはならないことだけは、十分に想像できる。
「切り札を使う件も了承した。戦うのがただの退魔士のお前なら、対抗策については出せる札は全て投入しなくては、話にもならん」
「それはそうだ、もとよりそのつもりだよ」
「だから、これを渡しておこう。絶対に使え。これが私が出す唯一の条件だ」
「これは……なるほど、たしかにこれは有効だろうが。しかし、生きて帰れとか、確実に勝てとか、そういったことをお前は言わないな?」
「お前はときどき、凄まじいまでの馬鹿だな。そんな条件は当り前だから、あえていうようなことでもないだろう。それは絶対的な前提条件だ。私はまだ、お前の肉体を、味わいつくしてはいないぞ」
 白雪の最後の物言いに、思わず笑みが零れる。最近になって、これが白雪流の照れ隠しかもしれないと、ようやくそんな風に思えてきた。全く、姫君というだけあって、我がままな発言が多い。
「そうだな、私もまだ、お前と一緒にいたいよ……」
 あとの言葉はいらない。一緒に抱きあうと、白雪の柔らかく、少し人間より低い体温を感じる。それでも、肌を重ねると暖かいのだ。この柔らかく暖かな感触に抱かれて過ごす時間が、とてもかけがえのないものだと思うから。負けるわけには、いかないのだ。
 一人ではあまりに広いベッドに、ゆっくりと押し倒されていく。私の唇に触れた白雪の唇は、いつもの欲望に満ちた口づけとは違って、甘く優しさに満ちたものだった気がする。


 そんなこんなで、次の日からは学校だった。山さんとの交渉から白雪を説得するという行為で、結局日曜の大半はつぶれてしまったわけだが。以下は、白雪との話し合いの一部だ。
「学校にいる間に、襲われる心配はないと判断して、山さんには一応学校がある間の仕事は外してもらっている。次の土日に決着をつけよう」
「お前にしては珍しいな。学校の連中に危害が及ぶとは思わないのか?」
 白雪の口調は、少しからかうようなものだったが、そこに真剣みが全くない。おそらく、私の意見から私の読みがある程度正しいと思っているから、このような口調なのだろう。
「お前も分かっているのだろう。白雪という吸血鬼の姫君が傍に来れる状態なら、相手は無意味に仕掛けてはこない。山さんとの相談中に襲ってくるかもと思ったが、襲ってこなかった。おそらく、お前が来ることを警戒していたのだろうが、つまりはそういうことだろう? かすめるという以前のお前の言葉は」
「ああ、そうだ。私がスグに駆けつけられる状態なら、奴はおそらくは仕掛けてこない。あるいは、私が間に合わない状態を作ろうとする。つまり、学校で私が警戒を強めている状態なら、よけに襲ってくることはないだろう」
「第一、学校は比較的目立つからな」
 そう、学校に昼間から侵入するというのは、ただの人間ならともかく、超越存在の類にはリスクも大きい。それだけで退魔組織に目を付けられることもあり得る。しかも、白雪に気付かれただけで、被害が広がるおそれまであるのだから。
 向こうからしても、学校という場所は実に都合が悪かろう。
「やけっぱちになることも考慮しないといけないが、とりあえず白雪が目を光らせていることを見せつければ、まず襲ってこないだろう」
「事前に罠を仕掛けるにも、あそこには私がいくつか細工してやったからな。表向きは退魔士の仕事として実行してやったから、まずあそこをお前をかすめる場所には、選ぶまいて」
「では、決まりだな。休日になってから、けりをつけよう」
「帰りの問題があるが、それは私が直接横についてやろう。隠形も使えば、昼とは違って夕方なら一般人の視界からは消えられるからな」
 吸血鬼は日光に弱い、というのもあるが。昼間は相手も目立つから、そもそも出てこない確率が高い。夜だけは隠形の類で白雪が隣にいれば、襲ってくるわけもないだろう


 ここまでが、白雪との議論の内容である。つまりは、学校にいる間は特になにもせずに、授業に専念する。相手を罠にはめるにしても、はめられるにしても、おそらくは休日である土日になるだろう。
 それにしても、学校は苦手な場所である。最初はなじもうと努力をしてみたのだが、なぜかあまり友達が作れない。みな、どこかよそよそしい雰囲気なのだ。それでいて、こそこそこちらをみて話をしたり、妙に緊張して話されたりする。おかげで、いつの間にか友達と呼べるほど親しい人間は、学校にはいない状態で定着してしまった。
 そのことを白雪に話すと、なぜか白雪は大笑いしたのだが。ただ、白雪も私の顔色を見て多少はフォローが必要なことだと感じたのか、
「嫌われているわけではないから安心しろ。お前の容姿が主な原因ではあるが……まあ、それはいってもどうしようもあるまい。しかし……モテるのもそれはそれでつらいな?」
 白雪の言葉の意味は、実はいまだに分かっていない。ただ、冗談めかしているが、若干怒りが混じっているような気がしたのは、気のせいだろうとは思うのだが。
 なにせ、私が学校で孤立したところで、白雪はそれで困るようなことはあるまい。
 あるいは、私の中性的な見た目が影響しているのかもしれない。かといって目元などが少々凛々しいというかきつい感じなのはどうにもならないし、かといって髪を長くするのは戦闘に邪魔だ。結局、いつも通りの髪形で学校にいく。
「まあ、親しい間柄の人間がいないのは、好都合かな」
 いつも通り、遠巻きに見られているような視線を感じながらの昼食中に、そう独り言ちる。親しく付き合っている人間を突き止められると、相手にその人物を人質にされかねない。
 山さんの方も、もしかしてと思ったが、警察の退魔士のことをしる人間ということで、おそらくは他の人間を襲うよりは慎重になるだろう。とりあえず、山さんもすぐに人質に取られる心配はない。
 あとは、休日になるのを待つだけだった。こちらは、その間に特に準備するようなことはない。こういった事態を想定したことはないが、ある程度重大な事態が発生した時の対策については、白雪ともうち合わせをしているのだ。あとは、予定通りに休日になるまでに相手が仕掛けてきた場合のみを想定して、こちらに都合のよい休日を待つばかりである。


 さて、全てがうまくいくとは思ってはいなかったが、とりあえず月曜に関してはそのまま何事もなく過ぎ去った。白雪に言わせると、私を見る『魔力の音色が感じ取れる』らしいが。
 ちなみに、人間は魔力を感知できる人間でも、『魔力の音色が感じ取れる』などとは普通、表現しない。人間は魔力で書かれた文言である『呪』を含めて、魔力などを直接耳で聞くことが出来る者が、ごく稀であるからだ。
 白雪は違う。その気になれば『呪』の文言を聞いて、発動前の効果すら推察できるらしい。魔力そのものも、ある程度は音として知覚して、その音の感じからどういった効果を発現させようとしているか、あいまいながら推測も可能らしい。
 文言である程度魔力を加工することで、発現する力の方向性をある程度確立しようとすれば、白雪はそれを『音色』と認識できるらしい。
 だから、おおよそ人間どころか超越存在ですら『魔力の音色』を白雪に知られないようにすることは、至難の技である。

 とにもかくにも、私の切り札である『椿』がこの女ストーカーの超越存在に知られていないこと。そして、白雪が私に託したこの希少な『血晶』。
 この二つの朱い華たちが、私が『真の超越存在』と戦うための、切り札にしてほぼ唯一となる、『アドバンテージ』だ。
 
 
 
 
第3章 輝く夜に閃くは朱き華 2幕へと続く

 
 
 
 


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