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百合のブログ小説1弾『姫君と令嬢の流儀 第2章 狙うを守るも狙うもの 3幕』 [百合小説:ブログ小説]


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第2章 狙うを守るも狙うもの 3幕


 
 家で待っていた白雪は、特に不機嫌な様子こそなかったが、上機嫌ともいいがたい、複雑な表情でベッドに座っていた。
「……そういえばお前、着物の色が灰色で帯が青色っていうのは、珍しいな」
「ああ、まあ基本白染めの雪色の着物と、紅い血色の朱の帯が多いからな。たまには服を変えた方が、お前もベッドで燃え上がるだろう?」
「……わりとすぐに脱ぐだろう、お前」
「そういうお前は、もうすこし『ふぁっしょん』とやらに、こだわった方がいいのではないか? ラフなといえば聞こえがいいが、あまりに機能性だけを追求しすぎて見目を気にしないのは、女として関心できることではないな」
「どうせすぐ脱がすから、関係ないだろう」
「ハッ! 子供じみた発言はやめるのだな、単に面倒なだけだろうに。まあ、私は確かにすぐ生まれたての姿にしてやるから、あまり関係ないといえばそうなのだろうな」
「大立ち回りをいつやるかも分からんのだから、お前のように特殊な能力でもなければ、服に拘ることは出来んだろう」
「合理的な言い訳だな。一理あるが、しかしそれが本来の理由というわけでもあるまいに」
 まあ、白雪の言い分は完全に図星ではある。私は実は、外見に関して気を遣うという行為そのものが、大変苦手なのである。かくいう白雪は、長い白髪を特に縛るでもなく、腰にまで届く状態で放置しているが、それで髪の毛が荒れるようすは微塵もない。吸血鬼なのだから、肌も血色が悪いかと思えば、そういうこともない。日を浴びたのか疑念を抱くほど白いが、その一方で十分に生気を感じさせる色合いでもある。
 ただ、白雪は吸血鬼であるから、肌などの手入れが一切必要でないのだ。どこか日本人形を思い浮かばせる、作り物めいた整った顔についても、碌に手入れをしている様子をみたことがないが、肌などが荒れているところを見たことがない。
「まあ、お前の中性的な容姿には、活動的な服装も合うんだが。よかったな、活動的な服装が似合う顔立ちで」
「……フン!」
 それが嫌味であることに気付かないほど、私は鈍くない。とはいえ、これもやはり事実だった。母親からも父親似の凛々しい顔だと評された。黒目は特に鋭い目つきということもないのだが、髪型の影響が大きいのだろう。髪に関しては自分でも伸ばそうかと思った時期があったものの、化け物たちとの戦いでは下手に髪を掴まれては、それが黄泉路への旅立ちにつながるから、うかつに伸ばすことは出来ない。
「白雪、なにをそんなに苛立っているというんだ?」
「なぜお前は、山の字や他の人間の生き死にばかりを気にする……?」
「……」
 馬鹿なことを、と続けるつもりだったのだが。口をつぐんでしまったのは、あまりに白雪の顔が真剣そのものだったからだ。独占欲の塊だとは思っていたが、不機嫌だった理由は、そういったこととは無縁のことだとばかり思っていたのだ。
「私はお前以外の人間がどうなろうと、知ったことではない。なのにお前は、私以外の存在のことばかり考えているだろう……? これ以上、私を妬かせるなよ……」
「……山さんとの話、聞いてたのか?」
 白雪は、その気になれば『縁』のある人間の影を通して、他の人間との会話を聞いたりすることも出来る。ただし、あまり感度がよくないというか、直接魔力と関係がないことに対しては、極端に制限が大きいようで、魔力の感知に集中したりすると、ほとんど音などは入ってこないと聞いたことがある。だから、山さんとの会話を聞く余力はないと思っていた。
「……あのな、お前の考えなど、長い時を経た私には容易に想像がつくのさ。わざわざ盗み聞きする必要などない。大体、魔力への感度をあげれば、そんなことをする余裕などあるものか」
「そうか……そうだな、お前なら私の考えなどお見通しか。だが、私は退魔士として皆を護ると誓ってこの仕事を始めたんだ」
 それは、たとえ誰が相手だろうと、おおよそ譲ることなど出来ない。そうでなければ、これ以後も退魔士として生きていくという覚悟そのものが揺らぐ。その覚悟なしに戦えるほどには、私はきっと強くはない。
「だがな、私の我慢とて限度が……」
「お前の方が大事だ」
 その場しのぎなどではない。きっと、始めて出会った時から本当はずっとそうだったのだ。いままでは、なにかと気恥ずかしくて、いえなかったことだが。今ならいえる。それに、今言わなければ、きっと後悔することになる予感がしていた。
「え……?」
 白雪が、私の前でもしかすると始めてかもしれないほど、呆けた顔をしている。思えば白雪はいつだって不遜で、全てを見下すような態度を崩すことは、あまりなかった。こういった顔もあったのか。そう思わずにはいられない。
「白雪、それでも、私は皆を守りたい。優先順位なんていうものを無視して、全ての人をだ。お前が一番大事だとしても、他の人を死なせる理由にはならない」
 それは、前々から考えていたことだ。たとえどう聞かれたとしても、私はきっとこう答える。子供じみた考えだろうが、それでも守れる存在を全て守りたいのだ。選別をするために、戦う力を求めたわけではない。
「お前は、わがままなのだな。姫も他の者も、全てを手にしたいのか?」
「そうだよ? 知らなかったのか? 私はお前も欲しいんだよ」
 ふ、と自然に笑みがこぼれる。これほど素直になって白雪に気持ちを語ったことは、始めてだろう。これからあるかもわからない。だからこそか。
「そうか、なら山の字とあったことも、自分たちだけで解決するつもりなことも、許してやるよ」
「もう一つ約束してほしいことがある」
「うん? なんだ? 今の私はとても機嫌がいい。キスをしてからなら、いうことを聞いてやろう」
 その言葉を聞いて、迷わず白雪の赤い紅い唇に向かって、顔を近づける。唇と唇が重なって、そこからどちらからともなく、舌が伸びて絡みあう。私にとっても、こういった白雪とのキスは嫌いではない。舌とともに糸が絡んで、ひとしきり愛し合ったあとには、ゆっくりと地面に零れ落ちていく。
「ああ、聞いてほしいのは一つだけだ」


「あのストーカー女の『超越存在』は、私が相手をする。白雪、お前は手を出すな。力は借りるが、決着をつけるのは私だ」
 そうだ、私は狙われて、それで震えて自分より強い存在にすがるような、そんなことのために今の仕事を選んだのではない。退魔士として、私があの存在に対して引導を渡すのだ。
 
 
 
 
第3章 1幕へと続く

 
 
 



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