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百合のブログ小説1弾『姫君と令嬢の流儀 第2章 狙うを守るも狙うもの 2幕』 [百合小説:ブログ小説]


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第2章 狙うを守るも狙うもの 2幕

 
 今日の目覚めは、白雪の濃厚なキスからだった。口腔をくまなく激しくまさぐる舌にかき回され、意識もかき乱される。
「ようやくお寝覚めか。本来キスで目覚めるのは、白雪の姫君の方のはずだが?」
「気のせいでなければ、お前のせいで気絶したはずなのだがな……」
 こういった白雪の行動には、時折いらつかされることもあるが、やはり私は父ほど熟達した退魔士というわけではなく、白雪の助力がなしでは、とうの昔に死んでいたかもしれない。白雪がいるから、自分の身の丈を超えかねないような無茶をしている、という面も確かにあるのだが。
 ただ、いつも白雪の助力に期待しているわけでは、もちろない。あの女の価値観は人間には理解しがたいものがあって、ようするに自分で何とか出来ることにまで助力を懇願するような輩は、趣味ではないといっていた。
 要約すると、自分で倒せる程度の雑魚は自分で倒せ、ということになるだろうか。それが出来ないようなやつは、
「この姫君たる白雪の寵愛を受ける資格などない」
 と明言していた。
 その一方で、なぜか自分が気に入った相手に魅せる執着心は尋常ではないようである。その落差があまりに大きいので、他の人間には白雪の思考を読み解くのはほぼ不可能に近い。山さんでさえ、いまだに白雪の性格が掴みきれてはいないようだった。
 ああ、こういったことが頭に浮かんだ理由は、山さんに呼び出されたからだったか? ようやく意識がはっきりしてくる。
「白雪、私は今日いくところがある」
「あの女に合いに行くのか?」
「冗談はやめろ。分っているんだろ、今日は山さんとの約束があるんだ、聞いてたんだろう? いつまで上に乗っかっているつもりだ」
「私が満足するまで……冗談だよ、怒りっぽいやつだな。まあ、魔力で追尾はしていたが、話の内容まで早々聞こえるものか」
「どうだか。前は私のスカートの中は覗けるとかいってなかったか?」
「ショーツの中まで見せ合った仲だ……」
「下品な物言いはやめろ!」
「裸で抱き合っているやつがいっても、説得力が欠片もないのだがな……まあ、どいてやる」
 まったく、まったく。こいつは本当にしょうもないやつだ。大体裸にしたのはお前だろうに。
 そういうと、口論が長引くだけなので、大人しくクローゼットに向かう。両親は退魔士で、モグリではあったがそれなりに腕利きという評価をされている上に、そもそも父はどちらかというと享楽家の気があった。合理主義者の母とは全く反りが合わないような気がするが、ようするに金には困っていなかったので、家に関しては高い買い物をしようという意見で一致したらしい。おかげで、内装や家具などもそれなりに高くて機能性の高いものが揃っている。
 クローゼットもその一つで、内部に巨大な等身大クラスの鏡がついているものであるため、いちいち別の鏡を見に行って服が合うかなどを確かめる必要はいっさいない。おそらくは家は高い買い物をするという一点のみは一致したが、合理主義者である母の影響を多分に受けたせいで、趣味的な意味で高価な家具の類はほとんど購入されていない。
 父がそのことについて、若干不満げにしているのを見たような気もするが、母が睨んだとたんに黙りこくった。まあ、概ねうまくいっていた両親だったのだろう。喧嘩も絶えなかったように思うが、それでも最後には二人で一緒に並んでいる。そんな関係だった。
「ふむ、いい眺めだ、悪くない」
 これである。人の着替えを堂々と除きながらの発言だ。どうして私はこんなやつと一緒にいるのだろう。分からない。
 が、思えば父と母も、お互いをこう罵っていたか。どうして私はこんな男と結婚したんだろう、分からないわ。そういいなが、しかし二人は幸せそうだった。
 これが、惚れたものの弱みということだろうか。


 山さんとの合流は、滞りなく完了した。白雪の方が、例のストーカー女の気配に集中するようだったので、その気配については私が気にする必要はない。というより、相手の隠形が見事すぎて、人間では絶対に見つけられないだろうから、それについては考えるのはやめた。
 まあ、白雪は私が全能力を持って敵わないと判断した場合は、自身の全能力をもって相手を殲滅しようとする。山さんにはその当たりの機微は未だに理解出来ないらしいが。私も、その機微に対して納得しているというわけではないが、大体理解できるようにはなった。
「ああ、お嬢、こんな休日にお呼び立てしてすみません」
「いえ、山さんの方こそ、本来なら休日なんでしょう?」
「ええ、まあ。しかし、気になることがありますから」
 山さんに来てくれないかと言われたのは、昨日の車の中でのことだった。白雪に事情を聞こうとするのは無理だと判断したのだろう。それは正しい判断だ。白雪は基本的に秘密主義というより、面倒くさがりであるために、自分から詳しく話さないといけない状況というのをひどく嫌う。そのくせ、いらないことはぺらぺら喋るやつである。
「昨日は、どんなプレイを?」
「張り飛ばしますよ?」
「いや、失礼。昨日の件なんですけど……全裸からなぜ服を着ている状態に?」
「だから……」
 と、反射的に反論しようとして、そういえば白雪が生物でない物体を直接持ってきたところを、山さんは見たことがないのだと気付いた。
「白雪は、自分が決めたテリトリー内の無生物の物体なら、いつでも持ってこれるんですよ」
「ああ、てっきり二人でああいうプレイをする前提で服を用意していたのかと」
「だからぁ!」
「いや、失礼」
 山さんはどこまでも真顔である。どういう神経をしているのか全く理解できない。なぜそういった台詞を真顔でいってから、爽やかに謝れるのか?
「まあ、冗談はこれくらいで」
「冗談には見えませんでしたが」
「話してくれたらいいな、くらいには本気だったので」
「ぶっ飛ばしますよ?」
「それはともかく、昨日の件……いったい何があったのです? 姫君が直々におこしになった以上は、かなりの大事なのでしょう」
 平気で無視しやがった。山さんへの好感度は、今急降下の一途を辿っている。が、ビジネスの相手でもあるのだし、実際大事ではあるのだから、茶々を入れあうのはやめた方がいい、そう自分に言い聞かせる。
「白雪が……おそらくは『真の超越存在』を感じたようです。ターゲットは私のようなので、それで白雪が」
「超越存在……あの姫君が警戒していると? しかし姫君は、基本的にはあまり協力的ではないでしょう?」
「直接聞いたわけでは。ただ、白雪が相手の能力を褒めた以上は、そうそう手に負える相手ではないということですので。化け物どころか、超越存在と考える方が妥当でしょう。あと、白雪は私が手に負えない相手のときは、話が別ですよ。あいつは、そういったときは敵を全力で消去します」
 ちなみに、化け物と超越存在の違いは、基本的には強さの違いでしかない。化け物と呼ばれる存在は、退魔士のようにそれを専門に扱う人間以外には違いが分からず、退魔士が出れば大体は討伐される。だから、化け物と呼ぶ以外に区別する意味があまりない。
 超越存在は違う。区別し、恐れ、分析しなければ、逃げることもままならない。もっとも、目を付けられて逃げられたものは、あまり多くはないが。ゆえに、その力から無駄な犠牲を払わないために、固有名を与えて対応をする。
 また、超越存在はなにゆえか人型であることが多い。どうしてか、強い力を持つ程に人間に近い見た目になる傾向がある。あくまで傾向であるので、当然例外はあるが。なぜなのかは、分かっていない。白雪に聞いてみたことがあるが、興味がなかったようで、全く話に乗ってこなかった。
「それが分からんのです。白雪さんは、なぜそういう考えなのでしょう? お嬢のことを愛してるんでしょう」
 山さんが、真顔でそれを口にしたので、言葉をまともに発することに苦労してしまった。
「超越存在ですから。人間とは違う価値観があるのですよ。そして、白雪には人間を認める基準のようなものがある。結局人間ではないのですから、人間と似た価値観を持っている方がおかしいでしょう?」
「しかし……!」
「それに、それは別に本題ではないですよね? 私は回りくどいことは嫌いです」
 そうして、言葉を使って切り込んでいく。山さんには悪いことを言うことになる。だが、これを言わなければならない。そのために、ここにきた。
「山さん、狙われているのは私です。今回の件に警察が関与するのはやめてください」
「……! お嬢!」
「超越存在ですよ? 貴方がたに何ができると? 私は白雪が守ります。貴方たちは必要ない」
「しかし、我々は……!」
「邪魔なんですよ。邪魔にしかならない。そのような正義感で、部下を何人殺す気ですか? 貴方のなすべきことは、違うんです。これは退魔士の領分なんです! 貴方たちには踏み込めない!」
「……ぐッ……! ……ハァ、分かりましたよ、お嬢に全てをお任せします。ただし、警察の手柄を奪うのはやめていただきたい。依頼をする形でないと、警察の手柄にならない。お分かりですね?」
「……分かりました。では、そのように」
「ふう。あなたは、頑固ですね……親父さんによく似ている」
「よく言われますよ」
 本当によく言われる。学校の友達にも、白雪にさえだ。だが、それをときに誇りに思う。人死にを減らすためなら、あえて人の自尊心を傷つけることを言う覚悟を。

「ええ、本当に……」
 警察の介入は、これで防ぐことは出来た。これで死ぬとすれば、おそらくは私と白雪だけだろう。いや、おそらく白雪は死ぬまい。私だけが標的になる。白雪にも、普段から狙われている気がしているが。
 退魔士の誇りとして、一般人を守ることが出来れば、それでいい。父が私に託したものが、それだと信じているから。
 
 
 
 
第2章 3幕へと続く

 
 


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