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百合のブログ小説1弾『姫君と令嬢の流儀 第2章 狙うを守るも狙うもの 1幕』 [百合小説:ブログ小説]


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第2章 狙うを守るも狙うもの 1幕



 白雪の麗しく赤い紅い唇が、私の肌を探るように触れていく。私の顔からは見ることが出来ない場所を、そうして丹念に口づけていく。かと思うと、突然音を立てるほどの力で、肌を吸ってきた。
「ハァッ……ぁそこは怪我なんかして!」
「自分では見えんだろう……? この際だから、しゃべることも出来ないくらいに嬲ってやろうか? 大人しくしていれば、気持ちよくさせてやるというのに」
 今度は、その唇と同じく赤い舌を使って、私の肌をしめらすように、舐めてくる。ただ治すだけなら、もちろんこんなことをする必要などない。舌でなめてきたと分かったのは、肌に触れる感覚が生暖かく湿ったものに変わったからだ。
 私にはもう、ロクに声を出すだけの力も残っていない。白雪は吸血鬼ではあるが、姫君とまで呼ばれるだけあって、普通に触れるだけでも生気を吸うことは出来る。だから、私がもう特に抵抗出来ないのは、決して気持ちいいからとかではない。断じてない。
「怪我を治すってッぁ!」
「舌を噛むぞ……別に、見境なくヤッてはいないだろうに……ん? 実は誘っているのか? それとも見られて興奮しているとか!
「……!」
「だんまりか……賢明だ。正直もう少しこのまま可愛らしい声をあげられていたら、本当に理性が飛びそうだったよ。家に帰ってから続きをするくらいの分別は、残りそうだ」
 白雪はそういうが、その瞳は欲望にあふれていて、それでいて艶めかしい。ただし、一応は理性を保っているようだった。普段の白雪はもっと見境がなく、ついでにがめつい。
 しかし、実際のところ治療に多少の魔力を消費するから、私の魔力を吸うという行動にも、ちゃんとした理由はあるにはある。とはいえ、どう考えてもそれが主目的ではないというか、それこそ魔力は帰ってから吸えばいいのだ。
 それなのに、こうしてここでわざわざ唇で私の肌を音を立てて吸ったり、舌で体を嘗め回したりするのか。単純に見せつけている。そう思うのだが。
「もう……見てないんじゃないか?」
「ふうん、ようやく少しおとなしくなったな。だが、ご期待にはそえないようだ。まだ音色が感じられる。お前を見ている。ずっと、食い入るようにな。私に対する怒りのような感情の音色も感じるが、お前に向けられた視線の熱さは、肌がやけるような心地すらするな。ずいぶん欲望に忠実な女だ」
 お前がいうか? そういいたかったが、そういう気力すら湧いてこない。というか、まだ見ているだと? なにが目的だというのか?
「お前がかわいらしく声をあげて悶えたとたん、視線が食い入るように、お前だけを見ているからな……単純にお前が欲しくてたまらないんだろう? モテる女はつらいなぁ?」
 だから、お前がいうな。
「私が意地が悪い? 馬鹿をいうなよ、そこいらの女を欲情させおって、この見境なしが。私が惚れた女のくせに、私以外にも気を持たせるとは、罪な女だよ、お前は。だから、私は妬いているし、そうさせたお前にも怒っている……それにしても、しつこい女だが」
 お前もな。しつこいのはいつものことだ。特に、ベッドで一度執着すると、この女はとかくしつこい。
「ふん、顔をみれば大体のことは分かる。私を誰だと思っているんだ」
 変態だろう。多弁になったからもう終わったかと思ったら、代わりに指で主に私の下半身を、細長くて色の白い、まるで折れそうにたおやかで、それでいて柳のようにしなやかな指先で、ときにやさしく、ときにはじくようにまさぐってくる。
「吸血鬼の姫君だ。失礼なことを考えていることだけは分かったぞ。さて、そろそろ許してやるつもりだったが、気が変わった」
 最初は治療が目的だったはずだが? いつからお前と私の痴態を、覗き見しているやつに見せつけるのが主目的になった? しかも、ついにはそれすらも忘れようとしているようだが。

 救いは、突然やって来た。
「ああ、ようやくみつかりま……なにしてるんです、二人とも?」
 山さんだった。ようやく来たのか……おそらく、仕事が成功したということで、大して急いでこなかったのだろうが、そのせいでえらい目にあったのだ。少々恨みがましい視線を向けても、バチは当たるまい。
「見たら分かるだろう。子供同士のたわいない情事だ。大人らしく見て見ぬふりをしていろ」
「いや、貴女は子供とは呼べんでしょう。大体、なんで白雪さんがここにいるんです?」
「一応視線はちゃんとそらしているあたりは、律儀な男だが。愛しあっているもの同士を、詰問で邪魔するのは感心しないな。いいから黙って終わるまでたっていろ」
「アホか!」
 白雪の注意が山さんにそれた瞬間に、白雪の頭を小突いて、体からずらそうとする。正直力が全く入っていなかったはずだが、口調の割には白雪は自分から肉体を引いた。
「ふう、まあそろそろ別の手法を試したかったところだ」
 肉体は引いたが、懲りてはいないらしい。しょうがないな。私の理性がハジけてトンでいっても、しょうがない。
「我が朱の華をもって……」
「やめておけ」
 その言葉は軽いものだったが、目が真剣にこちらを見据えている。どうやら本気で止めたいようだった。そうして思い出す。お前を見ている。そう、いっていた。まさか、今に至ってもまだ見ているというのか?
「まあ、興が削がれた。今日はもうこの辺で、一時中断してやっていいだろう。それにしても山の字、貴様どうやってここに来た?」
「私が連絡したんだよ。仕事が成功した場合、携帯ですぐ場所を知らせることが出来るようにしている。化け物は倒せても、すぐに家まで移動する手段は、私にはないからな」
「あの短時間でか? ふん、小賢しい真似を……」
「ですよねえ。もう少し楽しんでからでも……」
「山さん!」
「……っと! いえ、失言でしたね」
「全くだ。そういえばこういうやつだったな。まあ、いい。山の字、GPSとやらを使ってきたんだろうが、車はそう遠くはないのだろう。貴様は先に車の方に向かっておけ。私は令と話がある」
 いや、正直歩いて追いつけるだけの体力が残っていないのだが……というか、自分でそうしたのを覚えていないのか、こいつは。だが、一応生気を他人に移すことも出来たか。あまりそういうことをするやつではないのだが。
「……分かりましたよ。先にいってます」
 なにか言いたいことがあったようだ。刑事の勘で、なにかを察したのだろう。ついでに、白雪がそれを明かすつもりが毛頭ないことも、察したようである。言いたいことは飲み込んで、素早く言葉通りに身をひるがえしてから、ゆっくりと歩き出した。
「馬鹿な奴だ……切り札をむざむざ相手に見せつけるつもりだったのか?」
 白雪が、私にしなだれかかるような仕草で、耳元に囁いてくる。出来るだけ聞こえないようにという配慮もあったが、耳元を軽く甘噛みするためでもあったようだが。
「察しの通りだ。まだ見ている。一応、ここにお前の服があるから、素早く着替えて、山の字に合流しておけ。やつがお前をみるために動き出したら……」
「動き出したら……?」
 耳を優しく甘噛みされて、自然に口調が甘えるようなものになってしまった。そんなつもりなど、毛頭ないというのに。こいつに心を許すなど。
「私が殺してやるよ。だから、いけ」
 あくまで優しくだが、今度こそ完全に突き放すように身体を押して、距離を空けさせてきた。その手には、なぜかいままではなかったはずの、服が入った紙袋のようなものがある。白雪はこうして、意図する物体を空間を越えて持ってくることも、ある程度は可能な存在だった。
 そうして気付く。そういえば、いまはほぼ全裸に近い状態だった。今更ながら羞恥心が湧いてくる。いそいで服を着ようとして、また気付いた。
 いまの一瞬白雪が手を触れた瞬間に、生気を送り込んできたようだ。いつのまにか素早く服を着替え、山さんを追いかける程度の余力が体に感じられる。それに恩義を感じたわけではないが、
「死ぬなよ」
「誰にいっている……まあ、おそらくは追ってはこないだろうがな。破いたお前の下着なども、一応回収しておいてやる。私が『空間を渡る』のについてこれるのは、非生物のみだからな」
「分かっている」
 分かっている。白雪が警戒するほどの相手とは、この状況では到底戦えないし、そうでなくても正面からでは無謀だ。最初から、なにかあった際には、白雪が単身で相手するつもりだったのだ。そのための挑発行為だろう。多分に趣味が入っていることも、間違いはないが。
「帰ったら、中断された鬱憤を晴らしてやるからな、令。安心して安静にしていろ。すぐにベッドで、快楽で死ぬほど愛してやるからな」
「やっぱり、死んどけ」
 軽口を叩けるだけの余力はあった。山さんの姿はもうすぐ見えなくなりそうだが、手早く着替えを済ます。服装自体が比較的すぐに着れるものを選んであるが、今までのことを思うと、感謝する気にはなれなかった。
「……おそらくは、かすめとるつもりか……この私を相手にして……」
 そのつぶやきは、誰に聞かせるためのものでもあるまい。偶然聞こえただけだ。その意味はよくは分からないが。なんとなく、静かな怒りに満ちているようには感じられた。



 白雪の予想は当たっていた。結局、山さんと車に乗った私を追ってはこなかった。白雪がいたからだろう。吸血の姫君と正面切って戦うつもりはないらしい。
 余談ではあるが、そのあと白雪と同じベッドで寝ることになった私がどんな目に合ったのかは話したくない。というか、最初の口づけで口腔の中を、舌で嬲るように、それでいていたわるように味あわられた後のことは、記憶がほとんどないし、思い出せたとしたら、きっと羞恥心で死ぬことだろう。
 
 
 
 
第2幕へと続く

 
 


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